連載:東京五輪世代、過去と今と可能性

注目すべき中村敬斗の「成長力」  東京五輪世代、過去と今と可能性(9)

川端暁彦

物おじしないメンタリティーのサッカー小僧

J1第2節の鹿島戦ではポストに当たる惜しいシュートを放つなど、Jリーグの舞台でもその力を示している 【写真:アフロ】

 サッカーの話を始めたら止まらなくなるサッカー小僧である。「守備もよくなったよね」と一言振っただけで、このインタビューの文字数が埋まってしまうほどの言葉が溢れてくる。「山口智コーチがこんなことを言ってくれた」「◯◯選手に話を聞きにいってみた」なんて話がドンドン出てくるのも特徴だ。まだ高校生だが、この物おじしないメンタリティーも、中村の魅力だろう。

――U−17ワールドカップ(W杯)を戦った、あのチームの刺激も大きかったですよね。

 前線の競争がヤバかったです(笑)。毎試合のように結果を出さないと、すぐに外れましたから(笑)。でも本当にそのおかげ。あの代表がなければ、いまの自分は確実にないですね。森山さんの指導は本当に「育成」です。「自分で自分を成長させろ。食らい付いてこい」という感じで、本当のあの代表の初めのころと、終わりのころでは、めちゃくちゃ変わることができました。

――最後はラウンド16で、優勝したイングランドに0−0からのPK戦(3−5)で敗れました。

 イングランド戦は苦い経験でした。本当に強かった。僕も早い時間(後半9分)で交代になりましたけれど、動けていなかったので仕方ないです。正直、あのころの自分は守備の部分はできていなかったと思います。何となくごまかしごまかしやっていた。その部分はプロになってから変わったと思います。プロは出られなくなったら終わりですよね。その危機感が助けてくれて、自分でも(守備は)変わったと思います。森山さんには気付くのが遅くて申し訳なかったなとも思うんですが(笑)、あのころに言われていたことが「ああ、こういうことだな」と響きますね。

 W杯の時にやっていたのは、抜かれるのが怖いから相手のちょっと前で止まる守備だったんですけれど、今は抜かれてもいいから取りに行くのを基準にしていこうと思ってやっています。井手口(陽介)選手の守備を見習いたいなと思って、ずっとビデオとかを見て勉強しています。実はそっちの方が体力的にも楽だということも分かってきました。

――守備からショートカウンターで点を取れたら、理想的ですよね。

 絶対にそうです。前で引っ掛けられればチャンスになるので、それは狙っていきたいです。プロになって、これに気付いてやれるようになったというのは、すでにプロに来て1つ課題をクリアしたなと自分で思っています。もっともっとやれるようにしていきたい。

――中学の時はボールが来るのをボーッと待っているイメージだったけれど、今は違う。

 ガンバに来てからもトップ下だったり、最初は右サイドハーフだったりでしたけれど、森山さんに教わったことは生きていますね。タイミングよく顔を出して、間でもらって裏を通すとか。これまでトップ下はほとんどやったことがなかったんですけれど。あとは(久保)建英も、間で受けてというのがうまかったので、「建英みたいに中間でポジションを取って受けて」みたいなことも意識しながらやってみています。

(J1第2節の鹿島)アントラーズ戦とかも、そのイメージで崩してポストに当てたりしました。ただ、「相手に研究されてきてるよ」とガンバのスタッフにも言われているので、ちょっと違う動きも入れないといけないと思っています。2列目から一気に裏を取るとか。フリーランニングで相手を下げる動きとかをしていった方がいいね、と。もう分からないことがあったら、とにかく聞きにいきます。この前も、藤本(淳吾)さんに「もっと裏抜けた方が良かったですか?」とか聞いていましたね。

「改善していくことが気持ちいい」

長沢(右)など、G大阪の先輩たちにアドバイスをもらっている中村。「改善していくことが気持ちいい」と前を向く 【(C)J.LEAGUE】

――聞きがいのある先輩がいっぱいいますね、ガンバは。

 それもガンバを選んだ理由の1つですね。聞いたら、それを部屋に帰ってノートにまとめています。次は、FWの長沢駿さんにクロスに対する入り方とかを聞きたいなと思っています。ガンバに入って、本当にすごいと思った部分なので。自分も身長はある方なので、もっとヘディングとか、ワンタッチでも決められるようになりたいですね。

――そういう成長へのどん欲な姿勢が中村選手の強みですね。

 改善していくことが気持ちいいというか、「問題解決能力」と森山さんは言っていたんですけれど、それをしなくなった選手はもう終わりだ、と。だから、「常に課題を見つけろ」と言われていたので、その言葉はプロに入ってからなおさら意識しています。で、今はまた新しい課題を(4月25日の第10節の)湘南ベルマーレ戦で見つけて、今日も先輩に聞いて練習からちょっと実行してみようと思います。そう思ってやっているので、これが解決したらまた、どんどんどんどん……(笑)。

――その先に、大きなステージも見えてきますね。

 そうやって積み上げればと思います。将来的には海外のプレミアリーグに僕は行きたいので。

――小学校のときにもマンチェスターに行っていますよね。

 サマーキャンプに申し込んで行きましたね。あのころからずっと自分の夢が、あの国にあります。そのためにも、ガンバで結果を出したいです。今年はリーグで5点、カップ戦で5点という目標で入ったのですけれど、本当にまだまだなので、今はゴールを決めて勝利に貢献したいという思いしかないですね。

――2年後の東京五輪についての思いは?

(オーバーエージ枠を除けば)五輪は一度しかチャンスがないので、出たい気持ちはもちろんあります。そのためにもJリーグで結果を出さないとダメですよね。三好康児選手(コンサドーレ札幌)も、堂安律選手(フローニンゲン/オランダ)もいるポジションで、それこそ建英もいますからね。建英とは今、同じ得点数ですけれど(ルヴァンカップで1ゴール)、僕が1つ年上ですからね。そう考えると「俺、何してんのかな」と思います。1年後のあいつだったら、もっと点を取っているだろうなというイメージが湧くので。

今シーズンの初めと終わりで、中村はどういう選手に変わっているのだろうか 【(C)J.LEAGUE】

 動き出しを盗んだという宮代もそうだし、久保もそうだし、あるいは名前の出て来たガンバの先輩たちもそうだが、すべてが中村にとっての「学び」の対象となっているのが面白い。誰より「うまくなりたい」という欲が強く、まさに森山監督が強調してきた「自分で自分を成長させられる選手になれ」という言葉を地で行く選手である。正確に言うと、そういう選手になったと言うべきか。

「17歳」というフィルターを外して評価すれば、まだまだJリーグで残している数字は物足りない。ゴールという結果なくして、監督やサポーターを満足させられるポジションでもない。とはいえ、現状で直面しているプロの壁をも、いずれ乗り越えていってしまいそうな成長力を感じさせる選手であることも確かだ。今シーズンの初めと終わりで、中村がどういう選手に変わっているのか。ぜひ、その「成長力」に注目してもらいたい。

中村敬斗(なかむら・けいと)

【川端暁彦】

2000年7月28日生まれ。千葉県出身。180センチ75キロ。小学生時代は柏レイソルのジュニアユース、高野山少年団に所属。中学からは三菱養和SCでプレーした。2017年に行われたU−17ワールドカップではホンジュラス戦でのハットトリックを含む4得点を挙げ、鮮烈な印象を与えた。その活躍を買われ、高校2年でガンバ大阪に加入。“飛び級”でのプロ入りを果たした。G大阪加入後は、開幕戦の名古屋グランパス戦でデビューすると、3月14日のルヴァンカップ・浦和レッズ戦でプロ初得点を決めた。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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