バイエルンになかった「ちょっとの幸運」 ミスを誘発したCL準決勝のプレッシャー

中野吉之伴

「何でもできるFW」レバンドフスキの隠れた好プレー

第2戦もレバンドフスキらの活躍で先制したが、ミスで失点してしまう 【写真:ロイター/アフロ】

 迎えたセカンドレグ、ユップ・ハインケス監督は中盤にコランタン・トリッソを起用した。「戦術上の理由だ」と説明していたが、トリッソが入ったことで中盤からレバンドフスキへのパスが明らかに増えた。レバンドフスキはファーストレグでは怖さのないプレーに終始し、「やる気がないんじゃないか」というドイツメディアからの批判的な記事も少なくなかったが、フリーになっていても、いいタイミングでパスが出てこなかったという事情もあった。

 レバンドフスキは「何でもできるFW」だ。パスもドリブルもシュートもポストプレーもゲームメークもできる。だが一番怖いのはボールにかかわっていないときに相手マークから離れてフリーになる動きだ。味方が自分への視線を離すたびに、少しずつズレを生み出す。この試合の先制ゴールの場面でもそうだった。フランク・リベリからのパスを収めて右サイドのミュラーに展開。そこからのクロスからヨシュア・キミッヒのゴールが生まれた。

 ファーストレグに引き続き幸先良いスタートだったが、守備でまたしてもミスが出てしまう。11分、この日スタメン復帰したダビド・アラバがカリム・ベンゼマに振り切られて同点ゴールを許す。ファーへと消えるベンゼマの動きも、そこへピンポイントで合わせたマルセロのクロスも見事だったが、バイエルンは守備時のポジショニングと優先順位があいまいだったことも否めない。サイドからのクロスを許すならば、センターではよりポジショニングに気を配らなければならないし、そうでないなら一気にスライドしてクロスを上げさせないようにしなければならない。

GKウルライヒのミスに対するカーンの見解

バックパスを後逸するミスを犯したウルライヒ 【写真:ロイター/アフロ】

 試合は後半開始直後、トリッソからのバックパスに対し、GKスベン・ウルライヒが大きなミスを犯してしまった。最初に手で取りにいってしまい、バックパスだと直前で気付いたが、対応し切れずにまさかの後逸。ベンゼマがまたしてもゴールを奪った。テレビ解説を務めていた元ドイツ代表GKオリバー・カーンは「『ボールに対してのアプローチ』『バックパスだから手で使えない』『足で何とか』という同時にいくつかのことが頭の中で浮かんでしまい、ブラックアウトになってしまった。私も同じようなミスをしたことがある。間違いなく大きなミスだ。でも理由は見つけられない。なぜだか自分でも分からないんだ。そうした瞬間があの時来てしまった。そうとしか言えない」と説明していた。

 精神的なプレッシャーも要因の1つだったかもしれない。そもそもバックパス自体すべきではなかったという指摘もある。ファーストレグでもラフィーニャのミスパスが失点につながった。ミスをしてはいけないと神経を鋭敏に保ち続けなければならない。だからこそ起こったのかもしれないし、だからこそ起こしてはならないものだった。マッツ・フンメルスは試合後に「多くのチャンスを作ったが、ほんのちょっと何かが足りなかった。レアルの方がミスが少なかった」と語っていたが、それも1つの真実だった。

わずかな違いが幸運を呼び、ミスにつながる

サッカーではわずかな違いが幸運を呼び、わずかな違いがミスにつながる 【写真:ロイター/アフロ】

 それでもバイエルンは諦めずに勝利を追った。後半18分にハメスが同点ゴールを決め、決勝進出まであと1点というところまで迫った。2試合続けて大きなミスから失点をしながら、盛り返し、逆転のチャンスも作り出した。だが、レアルの粘りの守備をもう一度崩すことはできなかった。

 アディショナルタイムの最後の最後で、キミッヒからのパスで抜け出したミュラー。懸命に足を伸ばしたが、わずかにボールに届かなかった。直後に試合終了のホイッスル。レアルの選手が喜びを爆発させ、バイエルンの選手はグラウンドに倒れ込んだ。

 試合後に、最後のシーンについてミュラーがこう語っていた。

「あと半メートル、自分の走るコースに来ていたら……」

 何かが起こったかもしれない。でもそれがサッカーなのだ。わずかな違いが幸運を呼び、わずかな違いがミスにつながる。あとちょっとの幸運。そうかもしれない。ゴールシーンはいつだって少なからずの運としか言えない要素もある。バイエルンのゴールシーンでもクリアボールが少しずれていたら得点にならなかったかもしれない。でも、こぼれ球が来るであろう場所にいたかどうか。相手がミスをするかもしれないところへプレッシャーをかけたかどうか。そうした動きがなければ、運も生まれない。そして両チームのゴールはその駆け引きの中で生まれた。

サッカーの魅力が詰まった、記憶に残る夢のような試合

今シーズン限りで引退するハインケスは、満足げに両チームをたたえた 【写真:ロイター/アフロ】

 今シーズン限りで引退するハインケス監督にとっては、この試合がヨーロッパでの最後の舞台となった。これまでCLに出場した時には必ず決勝まで残っていた。初めての準決勝敗退となったが、チームのパフォーマンスに満足げに答えていた。

「チームは本当に素晴らしい気持ちを見せてくれた。多くのけが人もいた。あれ以上のものはもたらせなかった。レアルのGK(ケーラー・)ナバスが素晴らしいプレーを見せていた。今日の試合はサッカーというスポーツの素晴らしいアピールとなったと思う。2つの素晴らしいチーム同士の戦いだった」

 2度目の3冠への夢はついえた。それでもこの2試合は、サッカーの魅力が詰まった、記憶に残る夢のような試合だった。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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