親しみやすさで大谷の心をキャッチ? エンゼルスのオーナーとGMを紹介

菊田康彦

メキシコ系としては初のオーナー

入団会見で大谷と並んで登壇したモレノオーナー(左) 【Getty Images】

 日本プロ野球(NPB)では、球団を所有するのは基本的に企業であり、通常はその代表者(社長、会長など)がオーナーを務める。一方、メジャーリーグ(MLB)の場合、かつては社会的な成功を収めて財を成した者が、個人で球団を所有してオーナーになるというケースが多かった。

 だが、時代は変わった。昨年、元ヤンキースのスター選手であるデレク・ジーターらの投資家グループが、イチロー(現マリナーズ)のいたマーリンズを買収したように、現在のMLBでは共同所有が主流。個人で球団を所有するオーナーは、今や少数派になっている。その数少ない1人が、大谷翔平が入団したエンゼルスの4代目オーナー、アルトゥーロ・モレノ氏である。

 メキシコ系の家庭に生まれたモレノ氏は、高校卒業後にベトナム戦争に従軍。退役後はアリゾナ大学でマーケティングを専攻し、卒業後は屋外看板の広告会社で経験を積んだ。その後、故郷のアリゾナに戻って同業種のアウトドア・システムズ社の経営に参画すると、業績を順調に伸ばして1996年に株式を公開。その2年後には同社を8億ドルで売却し、巨万の富を得た。

 その間、投資家グループの一員としてマイナーリーグの球団を買収したこともあるモレノ氏は、故郷のアリゾナ州を本拠地とするダイヤモンドバックスに食指を伸ばすも頓挫。その後はウォルト・ディズニー社が売りに出していたエンゼルスに狙いを定め、2003年5月に1億8000万ドル(当時のレートで約216億円)で買収に成功。米国4大プロスポーツでは、初のメキシコ系オーナーとなった。

観客動員の増加、チーム強化に成功

 オーナー就任後、モレノ氏が手始めに行ったのは、チケット代と球場で売るビールの値下げであった。さらに大物FAのブラディミール・ゲレーロ(今年、米国野球殿堂入り)獲得など、02年のワールドチャンピオンから一転して地区3位に沈んだチームの戦力補強に対しても、積極的に投資した。

 その結果、翌04年の観客動員は10%以上もアップし、チームは18年ぶりに地区優勝。その後もトリー・ハンター、松井秀喜、そしてアルバート・プホルスといったFA選手の獲得にかかる出費を惜しまず、モレノ氏のオーナー就任から14シーズンで、エンゼルスは6度の地区優勝を飾っている。この間、年間の観客動員数が300万人を割ったことは一度もない。

 シーズン中は頻繁に球場に顔を出して選手に声をかけ、ファンともコミュニケーションを取っているというモレノ氏は、現在では珍しい、親しみやすく、かつアクティブなオーナーと言っていい。昨年12月に行われた大谷の入団会見で、口ひげをたくわえ、髪をオールバックに整えてサングラスをかけたダンディーな姿を、ご覧になった方も多いだろう。

チーム強化の重責を担うエプラーGM

エプラーGMはナイスガイとして有名だが、大きな責任を担っている 【Getty Images】

 NPBでもゼネラルマネージャー(GM)やシニアディレクター(SD)といった役職を、編成部門のトップに置くことが多くなっているが、MLBでチーム編成の責任者と言えばGMである。つまり、いわゆる現場の責任者が監督(フィールドマネジャー)なら、フロントでチーム編成の責任を負うのがGMということになる。

 もっとも、近年のMLBでは、GMの上に編成部門の最高責任者を置く球団も増えている。たとえばアスレチックスのGMはデービッド・フォースト氏だが、映画にもなった『マネー・ボール』で知られる前GMのビリー・ビーン氏が、球団運営担当の上級副社長として編成のトップに座っている。そうした球団の中には、GMという役職自体、設けていないところもある。

 ただし、エンゼルスの場合、編成部門のトップはGMのビリー・エプラー氏(42歳)である。現在のMLBでは、選手としてプロの世界に身を置いたことのある編成トップはごく少数で、このエプラーGMもプロでの選手経験はない。大学までは投手をやっていたが、肩を痛めて現役を断念している。

 大学卒業後に、財務アナリストを経てアメリカンフットボールのレッドスキンズでインターンとして働いたのが、プロスポーツ界への入口となった。00年にロッキーズのスカウトとして野球界に転職し、その後にフロント入りすると、04年11月にはヤンキースのフロントに“移籍”。12年からはGM補佐として、ブライアン・キャッシュマンGMを支えた。

 実はその直前、エプラー氏はエンゼルスの新GM候補に挙げられながら“落選”し、当時36歳でのGM就任は幻に終わっていた。しかし、エンゼルスの新GMに選ばれたジェリー・ディポート氏が15年シーズン中にマイク・ソーシア監督と衝突して退団すると、そのオフにはエプラー氏が晴れて球団史上12人目のGMに就任。「スカウト、育成、球団運営における経験に加え、組織の一員としてのコミュニケーション能力の高さも大きな理由」と語ったのは、採用を決めたモレノオーナーだった。

 素顔のエプラーGMは、無類のナイスガイだと言われている。ヤンキース時代から注目していたという大谷を射止めた時には、「自分の結婚と、息子の誕生と同じくらい」に喜んで、思わず床に尻もちをついてしまったというエピソードも微笑ましく伝えられている。

 先に書いたとおり、MLBではチームづくりの責任はGMなど編成部門のトップにある。彼らはチーム編成に関してほぼ全権を委ねられる代わりに、結果を出せなければ進退も問われる。エンゼルスは過去2年、負け越しが続いているが、そのチームをポストシーズン進出を目指せるまでに強化できるか。そして、大谷の二刀流を確立できるか──。

 15年オフに4年契約で就任したエプラーGMは、今季も含めてあと2年の間に、この2つの大きな課題をクリアしなければならない。
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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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