選手を守ってあげる“ルール”が必要 小塚崇彦が今後のフィギュア界を展望

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欠けていた雰囲気を作る迫力

宮原知子(写真)はノーミスの演技で4位に入った。しかし、上位3選手と比べて雰囲気を作る迫力がまだ足りなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 一方の女子では、1位と2位になった個人資格(ロシア)の2選手の戦いが白熱したものとなりました。1998年の長野五輪のタラ・リピンスキーさん、ミシェル・クワンさん(共に米国)の戦いを彷彿とさせるような戦いでした。1点で順位が変わるような戦いだったので、すごく見応えがありました。勝負を分けたのは跳んでいたジャンプの種類とその順番で、戦略面での差だったと思います。(アリーナ・)ザギトワ選手はショートプログラムの後半で3回転ルッツ+3回転ループを跳んで、その次は3回転フリップを跳んだ。(エフゲーニャ・)メドベージェワ選手もジャンプは全部後半でしたが、3回転フリップ+3回転トウループに、その次は3回転ループでした。その差が技術点の差につながったと思います。

 宮原選手と坂本選手は非常に良い演技をしましたが、4位と6位でトップの2選手とはまだ差があるように感じました。特に感じたのが雰囲気を作っていく迫力です。押し寄せてくるような雰囲気が、3位のケイトリン・オズモンド選手(カナダ)も含めて上位3選手にはありました。宮原選手と坂本選手もきれいにジャンプを跳んではいるのですが、ドーンと大きなジャンプを跳んだり、見ている人が圧迫されるような雰囲気というものが少し足りなかった。2人だけではなく、それは他の日本人選手にも必要なことだと思います。その意味では、紀平梨花選手(関西大KFSC)はそうしたジャンプも跳べるので、これからが楽しみだなと思います。

 押し寄せるような雰囲気を出すといっても、もちろん簡単にできることではありません。もともと持っているものも必要でしょうし、ダンスやバレエの動きを身につけたり、芸術的なものを見るなどいろいろな経験によって出てくるものでもあると思います。そうした努力が他の国に比べるとまだまだ日本は足りていないのかもしれません。

人間の限界に近づいている

平昌五輪のフリーで4回転6本に挑んだネイサン・チェン(写真)。もはや人間の限界に近づいており、小塚さんは「選手を守ってあげるルールが必要」と語る 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 今後の流れについては、ルールが今季終了後に変わるはずので、それ次第になると思います。日本の女子では平昌五輪には出場できませんでしたが、樋口新葉選手(日本橋女学館高)や三原舞依選手(シスメックス)らもいます。ただ、これから体が変化してくる年齢でもあるので、そこは乗り越えなければいけない。

 次の世代だと先ほども出た紀平選手や、先日トリプルアクセルを跳んだ竹内すい選手(大同大大同SC)がいます。またロシアの13歳、アレクサンドラ・トゥルソワ選手は、世界ジュニアで4回転を成功(サルコウとトウループ)させました。技術的な部分はこの先どんどん進んでいくと思います。今の選手たちが次の世代に遅れを取らないように、やっていくしかありません。現行のルールだった場合、3回転ルッツ+3回転ループもそうですし、トリプルアクセルや4回転を跳んで、技術点を稼がないとロシアに迫るのはなかなか難しいと思います。

 男子に関しては、4回転アクセルの可能性などが取りざたされています。ただ、今の男子はすごく技術の方に走っている印象も受けるので、そこは少し規制をかけてもいいかなと思っています。人間の限界に近づいています。

 平昌五輪ではネイサン・チェン選手(米国)が、フリースケーティングで4回転を6回入れていました。6回も入れるとやはりケガのリスクも高まりますし、体の心配も出てくる。せっかくここまで積み重ねてきた体をダメにしてしまうことはなんとか避けたい。確かに4回転をたくさん跳ぶと、迫力があって見ていて楽しいとは思うのですが、フィギュアスケートはそれだけではない。やはり上からルールで規制をかけて、選手を守ってあげるということも大事なのではないかなと個人的には思っています。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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