MGCシリーズに見た女子の誤算と収穫 若手の活躍が再興の起爆剤となるか

折山淑美

MGC出場権獲得者は男子13人、女子6人

名古屋ウィメンズマラソンでMGC出場権を獲得した関根花観(左) 【写真は共同】

 昨年8月から始まったマラソン・グランド・チャンピオンシップ(MGC)シリーズ国内戦が、3月11日の名古屋ウィメンズマラソンで今季は終了。男子は日本記録が16年ぶりに更新されただけでなく、2時間6分11秒の設楽悠太(Honda)と2時間6分54秒の井上大仁(MHPS)、2時間7分19秒の大迫傑(ナイキ・オレゴンプロジェクト)が日本歴代1位、4位、7位に名前を連ね、13人がMGC出場権を獲得。16年度は「サブ10」ランナー(2時間10分を切るランナー)が5人のみで、2時間10分台も5人のみだったが、今年度は「サブ10」が10人で、2時間10分台も7人とMGC効果が如実に出てきている状態になっている。

 だが女子は名古屋を終わってMGC出場権獲得者は6人のみ。日本陸上競技連盟マラソン強化戦略プロジェクトの瀬古利彦リーダーが「名古屋では(全部で)6人くらい出ると思っていたが、そう甘くはなかった。4月の海外マラソンでまだワイルドカード()獲得者が出る可能性を持っている男子に比べ、6名というのは少ない」と言う状況だ。

国際陸上競技連盟が世界記録を公認する競技会のうち、男子2時間8分30秒以内、女子2時間24分秒以内、もしくは上位2つの記録の平均が、男子2時間11分00秒以内、女子2時間28分00秒以内の選手はワイルドカードとして、MGC出場権を獲得できる。男子では川内優輝(埼玉県庁)が上位2レース平均が2時間11分00秒を切り、出場権を獲得している。

名古屋の誤算は「実力者」の不振

2時間23分台の自己ベストを持つ清田真央(写真)ら「実力者」が力を出し切れなかった 【写真は共同】

 名古屋の誤算は、2時間22〜23分台を持つ「実力者」と評価されていた選手たちの不振だった。

 2時間22分48秒の自己ベストを持ち、15年世界選手権代表にもなっている前田彩里(ダイハツ)と、2時間23分47秒を持っている17年世界選手権代表の清田真央(スズキ浜松AC)がともに10キロ前後で先頭集団から遅れ始め、清田は2時間28分58秒、前田は2時間30分54秒という結果に終わった。

 また16年の同大会では2時間23分20秒で走りながら、田中智美(第一生命グループ)に1秒差でリオデジャネイロ五輪代表の座を奪われるという悔しい思いをしていた小原怜(天満屋)も、22キロ過ぎから遅れて日本人5位の2時間27分44秒でMGC出場権を逃した。

 前田は大会前から準備が万全でないことが伝えられ、清田もチームの事情でコーチが変わったことの影響もあったのだろう。清田と同じチームで日本歴代4位の2時間21分36秒を持つ安藤友香(スズキ浜松AC)が、1月の大阪国際女子では2時間27分37秒のギリギリでMGC出場権を獲得したことからもその影響の大きさが分かる。

好条件ながら低調な記録に終わった

25キロでペースメーカーが外れて大きくレースが動いたが、前を追いかけたのは関根のみとなってしまった 【写真は共同】

 また女子の場合は、対象となる国内レースが5レースあった男子に比べ、4レースと少ない上に、11月のさいたま国際マラソンは2週間後に全日本実業団女子駅伝があるために有力選手が出場せず、実質的には選考レースとして機能していなかったという事情もある。

 だが1〜3位までのMGC出場記録は男子が日本記録+5分弱の2時間11分00秒であるのに対し、女子の場合は大阪国際女子と名古屋ウィメンズでは日本記録+9分弱の2時間28分00秒。それでも男子の半分という結果は、層の薄さが如実に出ているということだろう。

 今回の名古屋ウィメンズもペースメーカーが作るペースは17分03秒から16分48秒という幅があったとはいえ、無理な上げ下げをすることもない理想的なものだった。さらに気象条件もスタート時の気温は8.3度で、風も秒速0.3メートルと好条件。ハーフを1時間11分33秒で通過し、ペースメーカーが外れた25キロからの勝負で優勝したメスケレム・アセファ(エチオピア)が2時間21分45秒でゴールする強さを見せ、25キロから16分15秒の仕掛けをしたバラリー・ジェメリ(ケニア)が2時間22分48秒でゴールした。

 その中で初マラソンの関根花観(JP日本郵政グループ)が2時間23分07秒で走り切ったのは評価できる結果だが、それに続くMGC出場権獲得者は自己ベスト2時間24分38秒を持つ岩出玲亜(ドーム)が2時間26分28秒で、ベテランの野上恵子(十八銀行)が2時間26分33秒というのは、レースが好条件だっただけに少し寂しい結果だったと言える。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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