メダル争いのカギとなった“表現力” 安藤美姫が平昌五輪の女子FSを解説

構成:スポーツナビ

坂本選手の名を知らしめた今回の五輪

坂本は初めての五輪ながら、持ち味のダイナミックなジャンプを世界に見せることができた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 6位だった坂本選手は緊張していたように感じました。ジャンプはダイナミックでしたが、全日本選手権のときの方がよりダイナミックだったと思います。それでも初めての五輪で、その前に大きな試合をこなしている選手ではないのに、小さなミスに抑え、坂本選手らしいダイナミックなジャンプを世界に見せることができました。彼女の名前を覚えた人が、この五輪でたくさんいるのではないでしょうか。そんな演技だったと思います。これを良い経験として自分の力に変え、宮原選手と一緒に日本のトップを支えていく存在に今後もなってくると思います。

 FSではたまたまカロリーナ・コストナー選手(イタリア)の後に坂本選手が滑りました。スケーティングの美しさやポジションのライン、スケートの伸び、表情の作り方など、坂本選手にとっては非常に参考になったのではないでしょうか。ジャンプはお互いにミスがありましたが、コストナー選手が坂本選手を上回ったのは、5コンポーネンツの部分です。決まったジャンプの加点もコストナー選手にはあります。

 そういう意味で、宮原選手も含めて日本の選手に必要なのは、雰囲気作りだと感じます。リンクの上に立ってから、どれだけその空気を自分のものにするか。坂本選手ならば、フリーレッグの美しさや、指先まで意識しながら手の1つ1つの動きなどが、今後の課題になってくると思います。

演技構成の差で接戦を制したザギトワ選手

個人資格(ロシア)の2選手には、同じ先生の元で追いつ追われつの素晴らしいドラマがあった 【写真:ロイター/アフロ】

 優勝したザギトワ選手と2位のメドベージェワ選手の差はほとんどないのですが、強いて挙げるとすれば、ザギトワ選手のジャンプがすべて後半だったということです。ザギトワ選手は自分の弱みを分かっている構成で、それに加えてシーズンを通して5コンポーネンツを上げてきました。この何カ月ですごく成長した部分だと思います。

 一方のメドベージェワ選手は、少し緊張が感じられました。普段はもっとリラックスして演技をしているのですが、今回は慎重に落ち着いてやっていたように見えました。ただ、2選手とも素晴らしい演技で、この僅差に関してはプログラム構成だけだったと思います。

 個人資格(ロシア)の2選手には、同じ先生の元で追いつ追われつのドラマがあって、(演技を見ていて)グッときました。キス&クライでのメドベージェワ選手の表情を見ると、言葉では語れない重圧や思いが彼女の涙から感じられました。今回はメダルの色というより、こんなに素晴らしいドラマのある五輪を見ることができた幸せ、この瞬間を味わえた幸せの方が大きかったです。2選手には感謝しかないです。

 今回のFSを見ていて、第1グループから3回転ルッツ+3回転トウループのコンビネーションが見られるなど、女子もすごくレベルが上がっているなと再確認しました。フランスのマエ=ベレニス・メイテ選手などは演技中に衣装が変わったり、前半は王道の曲なのに、後半は「その曲にいくんだ」という感じで、エンターテインメントの部分も見せてくれました。キャラクターが個々に表れている選手が第1グループから多かったので、そういう意味ではジャンプだけではなく、氷上のエンターテインメントや曲との調和というのもフィギュアスケートの魅力で、それが詰まった女子の試合だったと思います。

 最後に、今後の女子フィギュアについては、コンビネーションでセカンドに3回転ループを行う選手が増えてくると思います。さらにはトリプルアクセル、4回転ジャンプの時代もすぐに訪れるのではないでしょうか。4年後までにそれは加速するでしょうし、男子同様に女子も技術の面で面白くなってくると感じています。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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