悔しさにじむ渡部暁斗「金は遠かった」 復調ドイツ勢に崩された必勝パターン

スポーツナビ

ジャンプを強化すれば滑りが……、複合の難しさ

 シルバーコレクターとも評される渡部暁は今シーズン、ジャンプ強化に重点的に取り組んできた。夏の合宿でも9〜10月の欧州遠征でも飛び出しの改善に取り組み、「飛型点をあまり失わずに飛距離を伸ばせるようになった」と大きな手応えを得てシーズンインする

 複合競技の難しいところはジャンプとクロスカントリーを両立させることだと渡部暁は語る。

「どちらかにバランスを取るのがすごく難しいので、片方が良くなったらもう片方が悪くなる、ということがあるんです。そういう行ったり来たりというか、天秤の分銅をどうやるかみたいなのをずっと繰り返しながらやっています」

W杯で必勝パターンを確立したかに見えた渡部暁だったが、五輪は復調したドイツ勢が上回った 【写真:ロイター/アフロ】

 実際に今季W杯5勝のうち4勝が、ジャンプを1位で折り返す先行逃げ切りだった。必勝パターンにつながる“分銅の置き方”を見つけたかに思えたが、五輪では復調してきた王者フレンツェルらにかなわなかった。

「仕掛けたところは良かったと思うので、あとはそれが最後まで持つような走力が……。もちろん今年はジャンプに力を入れたぶん、そういう結果になったというのもあると思うんですけど、走力アップも必要だろうし、欲を言えばもうちょっと離せるようなジャンプも必要かもしれないし、まだまだって言うことなんじゃないですかね」

「今日はあまりスッキリ感が残っていない」

「金メダルは遠かったな」と渡部暁、レース後はしばらく立ち上がれなかった 【写真:ロイター/アフロ】

 ノーマルヒル銀メダル、ラージヒル6位だったソチ五輪から4年経ち、「あの時を10とすれば今季は15」と自信を持って金メダル最有力候補として臨んだ平昌五輪個人戦の結果は、ノーマルヒル銀メダルとラージヒル5位。

「ソチの時は当時のベストを出し切ったとスッキリしている部分もありました。でも今日はあまりスッキリ感が残っていないというか、かと言って金メダルは遠かったなという感じ」と、今後の戦い方はまだ見つかっていない。

「五輪までW杯で勝っている選手の方がメダルを取る確率が高くなっている」との分析通り、シーズン5勝、金メダル本命と言われる成績を残して臨んだ五輪でも、金メダルには手が届かなかった。

 中1日開けた22日には団体戦ラージヒルが待っている。今後の戦い方について「これからどうしようかなというところもありますね」と迷いもあるが、今大会は渡部暁以外の日本勢も好調で、この日は永井秀昭(岐阜日野自動車)が12位、山元豪(ダイチ)が16位、20位に弟・渡部善斗(北野建設)。ソチ五輪の5位を超え、メダルも狙える勢いだ。

 団体メダルへ鍵となる日本のエースはノルディック複合という競技についてこう語ったことがある。

「僕たちは2種目やるから、完璧な滑りというのがないんですよ。ジャンプが完璧でクロカンも完璧っていうのはあり得ない。過去を振り返った中でも、ジャンプ1位、クロカン1位という人はいないと思うんです。どっちかでは絶対に納得できてない部分があって、だから終わりが遠い」

 今までで一番の手応えを得て、もっとも良い状態で臨んだはずの五輪で金メダルを逃した悔しさは計り知れず、もしかすると本人の内には失望感すらあるかもしれない。とはいえW杯王者に最接近している今季の実績が消えるわけではない。

「もう29歳だし、急成長ということはありえないんですよ。だから亀みたいにでもいいから、一歩ずつちょっとずつ成長をかみ締めながら、日々のちょっとした変化を楽しみにしながらやっていければいいかなと」

 今回もまたわずかに手が届かなかった頂点。その上り方は、これまで通り日々の小さな成長を重ねた先にきっと見えるはずだ。

(取材・文:藤田大豪/スポーツナビ)

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