「下山を決断」したフリーライド白馬大会 カナダでの代替開催で浜が日本人初優勝
フリーライド競技の世界選手権で日本人初優勝を成し遂げた女子スノーボードの浜和加奈 【freerideworldtour.com】
3月1〜7日に行われるアンドラ大会、3月9〜15日に行われるオーストリア大会に出場する権利が与えられ、女子スノーボードに出場している7名のうちオーストリア大会終了時点で上位4位のみ出場できる最終戦、スイスのヴェルビエ大会への出場にチャレンジする。
世界的には無名の選手が予選でのポイント獲得を経ずに、いきなりトップ選手しか出場出来ないFWTで優勝するのは異例中の異例である。
さて、ここまで読んで頂いた読者の方は、「カナダで行われた白馬大会」という言葉に違和感を感じただろうか。実はこの大会は長野県白馬村で行われる予定だったがキャンセルされ、繰り越しで開催されたイベントだった。
白馬大会、2週間のウェイティングと繰り越しの決断
特に、イベント運営において(1)の「選手の安全を重視する姿勢」は徹底しており、チームの山岳ガイドや選手たちの意見を聞き、少しでも雪崩の危険性や大きなケガの可能性があると判断した場合は、スポンサーやプロモーションの都合を多少犠牲にしてでも安全を優先させ、日程や開催する斜面を変更する。
競技前にはミーティングで選手たちに斜面のコンディションが伝えられる 【freerideworldtour.com】
しかし山岳ガイドとして、FWTのスタッフとして、アラスカなどの極地を含む世界中の山で20年以上大会を運営してきたFWTの競技セキュリティーチームでも、1月の北アルプスの気候を読み、判断を下すことは困難を極めた。1月にはめったにない雨が標高2000メートルの地点まで届き、斜面の雪を全て剥がした後、大量の積雪、そして直後にそれを吹き飛ばす爆風と、準備の開始からウェイティングピリオドの2週間は、息つく間もなく天候が変わった。
天候の間を縫い、18日には82人の日本人・外国人選手に混じって戦ったFWQ(予選大会)を実施、20日に現在世界最高のスノーボーダーのひとりと言われているトラビス・ライスや日本人で唯一昨シーズンのツアーを転戦した楠泰輔ら10人のFWT出場選手が滑ったエキシビションを行った。
エキシビションで滑走するトラビス・ライス 【freerideworldtour.com】
ウェイティングピリオドが残り1日となった26日。競技斜面を変える、ウェイティングピリオドを1日伸ばす、などさまざまな可能性をギリギリまで探った末、夕方5時に白馬の山でのイベント開催をやめるという決断が下った。
FWTの創業者であり会長のニコラ・ハレウッズはこの決断に関して、「“セーフティー・ファースト”を掲げているFWTにおいて、選手の安全はほかの何よりも優先されます。FWTチームは準備期間を含め2週間、地元の実行委員会の皆さまと競技の開催に向けて全力でトライし、実施には至らなかったものの、その連係は非常に強固なものとなりました。来年また白馬に戻ってきて、大会を開催することを今から心待ちにしています」との声明を出した。
山での遭難事故は、「無理をしたり、十分な検討なしで決行する」ことが原因で起こることが多いと言われている。数年にわたる準備期間とたくさんのお金をかけたにもかかわらず、経験豊富なプロが検討に検討を重ね、「安全」という何にも勝る要素を優先して「下山を決断」した大会実行委員会。その判断と決定が、バックカントリーを楽しむ一般のスキーヤー・スノーボーダー、トレイルランニングやマウンテンバイクをする人、登山者など、山や自然を相手に遊ぶ人たちへのメッセージとなることを当事者の一人として強く願っている。
白馬でフェイスチェックをする選手たち 【freerideworldtour.com】