小平奈緒の強さを支えた“達観” マイペース貫き、悲願の金メダル獲得
「戦うべきはタイムや自分自身」
小平を指導する結城匡啓コーチ(右)の言葉を実践し、小平は自らの記録と向き合った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
それは小平を指導する結城匡啓コーチの言葉でもあった。常日ごろから結城コーチは「順位というものは相対的なものであって、絶対的なものではない」と小平に言い続けてきた。他の選手に勝つことを考えるよりも、まずは過去の自分に勝つこと。自身のベスト記録を出した上で負けたのならば、それは仕方がないというスタンスだ。
その教え通り、小平は500メートルよりも先に行われた1500メートルと1000メートルで低地の自己ベストを更新。1500メートルでは6位、金メダルも期待された1000メートルでは2位だったものの、さほど悔しがるでもなく、穏やかな表情を浮かべながら「500メートルで金メダルを取る方程式に乗っていると思う」と手応えを語っていた。
こうして迎えた500メートル。ここでも「戦うべきは順位ではなく、タイムや自分自身だと考えていた」という小平は、アウェーの地・韓国でその戦いに勝利した。
他の選手とは違う生き方や考え方
ソチ五輪から4年、小平は再び五輪に戻ってきて、今度は特大の歓喜に浸った 【写真:エンリコ/アフロスポーツ】
小平は500メートルのレースをそう振り返った。優勝が決まった直後は涙を見せていたものの、時間が経つにつれていつもの冷静さを取り戻していた。そんな小平を、結城コーチは「アスリートとして達観している」と評す。
「メンタルがどうとか言うより、彼女の生き方や考え方が他の選手とは1つレベルが違っているんじゃないかと思います。(500メートルにおいて)36秒台という数字が見たい。それで負けたら誰に何を言われても仕方がない。その考えをとにかく徹底していました。今日も本当に試合かなと思うくらい、ご飯を食べていました。逆に僕の方が緊張して、(食事が)のどを通らないくらいです(笑)。彼女はオランダに行って、全然違う人になって戻ってきました。本当に今は達観している感じがします」
4年前は完敗に終わり、「いつかこの舞台で結果を引き寄せられる選手になりたい」と涙ながらに誓った小平。そんな彼女が再び五輪に戻ってきて、今度は特大の歓喜に浸った。「達観」していても、ふと感情がのぞくときもある。同じ涙でも、このレース後に流した涙は4年前とは意味が違っていた。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)