日本ボブスレー陣の強化施策とは? 撒いた種が北京で花開くために――

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「国産マシン」を利用することの難しさ

「メイド・イン・ジャパン」のマシンも開発しているが、現状は五輪で戦うにはまだ難しい理由がある 【写真は共同】

 世界と戦うための指導者と人材に注力するのと同時に、そり競技においてもう1つ重要なのがマシンとなる。

 最近の五輪では国産マシンの話題も上がるが、実際のところはそれほど単純ではない。

「欧米では、マシンを作っているのは専門の職人です。昔、NASA(米国航空宇宙局)がそりを開発したのですが、その研究データだけではそりが(速く)走りませんでした。研究データ通りに設計しても、実際の現場ではその通りにいかないのです。昔からそのようなことがたくさんあり、BMW(ドイツの自動車メーカー)でも研究開発しているそりがあったのですが、研究が主になってしまい、現場ではその通りに機能しないこともたくさんあったようです」

 マシンを設計し、理論上では最速のものを生み出したとしても、それを操縦するパイロットの感覚や実際にコースで走った時の振動は、理論どおりにいかないことが多い。理論を越えた部分の「経験」「感覚」を、最先端のマシンには職人の技術を通して改良されているのだ。

「欧米の職人たちは、みんな過去に(本人が)滑っているんですよね。そうすると自分たちで運転してみて、選手たちの『ここをこうしてほしい』という要望を聞き入れることができます。どうしてもエンジニアや開発者の方は論理的な思考が先になって、選手の感覚とは違ってしまいます」

 マシン開発という部分では、日本の技術はどこよりもすぐれているのは確実だ。しかし実際のレースには、技術だけでは太刀打ちできない、伝統や実績が必要であり、日本国産のマシンが今から挽回するには、もう少し時間がかかりそうだ。

“種まき”の4年間。開花は次の北京で

平昌では出場がかなわなかったが、次の北京では優勝争いに加わわることを目指していく 【写真:ロイター/アフロ】

 そのために日本チームとしては最新鋭のそりを2台購入し、五輪に向けての準備をしてきた。
「ドイツの『シンガー』というメーカーのそりを購入し、実は五輪用にはオーストリア『ワルサー』のマシンを購入しました。そりに関しては、その選手やコースに応じて、どんなランナー(※そりの歯の部分)を使い、バネをどれぐらいの強さにするかを調整しますが、その技術者もハンスコーチと一緒に呼んでコーチ契約しています」

 そりに関してはそのマシン自体にも費用がかかり、強化のためには海外のレースに出るにしても、その輸送費が数十万円かかってしまう。そのため、過去には選手自身が輸送費を負担することもあった。しかし金銭面に関しては、現在は改善されている。
「日本連盟も一般社団法人から公益財団法人に変わりました。そのため財源の確保のため、スポンサーシップも探しています。過去には個人負担もありましたが、今はかなり改善されています」

 世界と戦うために必要な「人・物・金」をそろえ、あとは成績を残すだけという状況になった。ただ平昌五輪に関しては、不運な部分もあった。
「日本チームはヨーロッパを中心にサーキットをしていました。五輪に出るにはIBSFのランキングポイントによって決まるのですが、それが米国のコースでのレースが中心で、レークプラシッドやソルトレイク、カナダのウィスラーと、あまり滑走経験がないコースでした。そこのレースで転倒してしまったこともあり、歯車が狂ってしまった部分もありました。この結果については受け入れるしかないと思っています」

 今回の五輪は残念ながら日本からの派遣選手が減ってしまい、日本チームの活躍は難しいところだろう。しかし、ソチ以降の“種まき”は、次の4年間へとつなげていく。
「本当は平昌での目標を女子の入賞、メダルに置いていました。ただ、ここでストップするのではなくて、次の北京に向け、男女ともに“倍返し”するという気持ちで今後の戦略を考えていこうと思っています」

 韓国ではスタートラインに立たせてもらえなかった世界との戦い。4年後の北京ではトップ争いをしていることに期待したい。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)

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