ウインタースポーツを普及させるために 【対談】皆川賢太郎×小塚崇彦・前編

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スキーとフィギュアの育成環境は!?

日本にあるスキー場は大多数が一般客のためのもの。選手が専用で使える場所はあまりない 【写真:アフロスポーツ】

――育成という意味で、現状スキーの環境はどうですか?

皆川 日本のスキー場は多いときで700ちょっとあって、今は稼働しているのがだいたい300くらいです。

小塚 そんなに減ってしまったのですか?

皆川 減ったと言うか、指定管理者制度でバブル期にどんどん増えてしまったんです。増えたのはいいけど、みんな休業にしている状態です。僕は300くらいがちょうどいいなと思っているのですが、民間がやっているので商売が基本になる。選手たちの練習場と言うよりも、一般の方のためのスキー場が大多数です。ある一定のレベルになると、環境を求めて海外に出ることが普通になる。国内でもう少し、それこそ大学や専用に使えるエリアを作ることがすごく重要だと思います。

――専用の場所は今どれくらいありますか?

皆川 スキーに関しては種目によりますね。たとえば僕がやっていたアルペンスキーは、専用の場所が3カ所あります。長野県と北海道なのですが、そこは2時間制でいろいろなチームが練習しています。ハーフパイプはそもそも日本にワールドクラスの場所が3カ所しかない。ただ、ジャンプ競技は逆に一般の人が入ってこないので、永遠に飛び続けられる(笑)。

小塚 どれくらい練習した方がいいというのはありますか?

皆川 僕らは1日に何千ターンというのが選手によって決まっていました。滑走日数は、365日間でだいたい180日くらいがいいんじゃないかと言われています。ただ、日本人がそれを消化しようとすると、毎回海外に行って何日間か滞在してまた戻ってくるというのを繰り返さないといけない。一方で天候の問題もあるので、消化できないときもあります。その点、海外の選手は1週間、自分の地元で休んで、天気が良くなったら行くということができるので、そういう利点は海外の方がありますね。

フィギュアスケートの育成環境は以前に比べると整ってきたという。小塚さんの現役時代は苦労したこともあったそうだ 【赤坂直人/スポーツナビ】

小塚 フィギュアスケートは時間になってしまうかな。3つに分けて1時間ちょっと、1時間、1時間の約3時間半ぐらい滑る。それに加えてトレーニングという人が多いですね。小さいころはとにかく5時間、6時間と氷に乗るんです。

皆川 フィギュアスケートの育成環境は海外に比べて整っているのですか?

小塚 今は整ってきました。ただ、関西大と中京大がリンクを作る前に、環境が少し悪い時期はありました。リンクがなくなることによって、選手たちが散らばり、他のリンクにしわ寄せが来るようになったんです。曲かけの順番が回ってこない、人がいっぱいいすぎてジャンプが飛べないというのがあって……。

 またフィギュアスケートだけじゃなく、ショートトラックやアイスホッケーも一緒になるので、そこにしわ寄せがいく。夕方から22時ごろまでフィギュアの選手が貸し切り、その後ショートトラックの選手たちが貸し切り、最後アイスホッケーの人たちが夜中の2時から練習をスタートして4時までやっていたり、そういう時間の取り合いもありましたね。埼玉や西宮にスケートリンクができたりしているので、少しずつ選手たちが始める環境は整ってきています。

コーチ育成ができていないスノーボード

スノーボードは技術が進化しているものの、それを教えられる指導者が不足している 【写真:ロイター/アフロ】

――指導者の数はどうでしょうか?

小塚 フィギュアスケートはいろいろな方が指導者になっています。もちろん佐藤信夫先生や、長光歌子先生、先日引退されましたけど、長久保裕先生もいます。また、本田武史さんや田村岳斗さんといった、現役をしてバリバリ世界のトップで戦っていた先生たちもいるし、けっこうタレントぞろいだと感じています。

皆川 僕たちが一番困っているのはスノーボードです。スノーボードは技術がどんどん上がっていくのですが、その世界観で生きた日本人が誰もいない。だから教えられる人がいないんです。それが人選ですごく困るところです。その景色を見た人や、コーチングとして非常に優秀な人をピックアップすれば、必然的に選手のためになるのですが、その経験をした人が誰もいない。だから教えようがないんですね。

小塚 どうされているのですか?

皆川 今はITがすごく発達しています。データ分析と映像はすごく重要で、映像がほぼ先生みたいになっていますね。コーチとその映像を見ながら、どういう回転をしようとか、ジャンプの抜け方がこうだからとか、結果と照らし合わせて「そこには到達していないね」ということをやるしかないんです。先生が突然、新技を持ってきて、これをやろうというのはないです。そもそも誰もやったことがないし、想像もできていないので。

小塚 それこそITだったら海外のコーチに、映像を送って見てもらうというのができそうですね。

皆川 そうです。今はまだそういう形なってしまっているのが現状です。ただ、スノーボードは今までもプロのライダーはたくさんいたのですが、みんな引退したらだいたい映像制作や、撮影の方にいく人が多い。コーチングするという感覚が全然なくて……。だからコーチ育成みたいなことができていないというのが実際のところです。

小塚 そういうところは、やはり企業に手伝ってもらえるとありがたいですよね。

皆川 生活を支えていただきながら、本当にそれに打ち込めるといいのですが……。まだまだ個人商店ばかりなので、そうなってくれるといいですよね。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

<後編へ続く>

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