異例の危機に苦しむジダンとR・マドリー 辞書には「論理」も「忍耐」も存在しない

吊るし上げられる功労者・ベンゼマ

レアル・マドリーで多くのタイトル獲得に貢献してきたベンゼマだが、不調の今、その地位を奪われそうになっている 【写真:ロイター/アフロ】

「一流の9番が、バルセロナにはいる」

 スペイン最大手のスポーツ紙『マルカ』は、そんな表現でゴール欠乏症のベンゼマを吊るし上げている。得点数が少ないがゆえ、長らくサンティアゴ・ベルナベウのスタンドからブーイングを受けてきたベンゼマはしかし、もともと生粋の点取り屋ではない。彼はチーム得点王のC・ロナウドにゴールを決めさせるためにどうプレーするべきかを熟知した、周囲を生かすプレーに長けた選手である。

 5年余り前までベンゼマはもう1人のセンターフォワード、ゴンサロ・イグアインと定位置を争っていた。イグアインもまたベルナベウから拒まれ続けた1人だ。白色のユニホームを着てたくさんのゴールを決めながら、人々はそのほとんどが重要性の薄いものだとみなしていた。結局、彼はレアル・マドリーを去り、移籍先のナポリで歴史を作った後、ユベントスでチャンピオンになった。その傍ら、ベンゼマはレアル・マドリーに残って多くのタイトルを獲得しながら、一時の不調に陥っただけで長年かけて築いてきた地位を奪われそうになっている。

 1月14日、バルセロナがアノエタでレアル・ソシエダ相手に4−2の逆転勝利を成し遂げた翌日、『マルカ』紙は「タイトルはこうやって獲るものだ」と伝えた。それはバルセロナへの賞賛以上に、マドリディスタ(レアル・マドリーのファン)たちへ向けたメッセージという印象を受けた。

ジダンは現有戦力への信頼を示すが……

ジダンは冬の補強などをクラブに求めることなく、現有戦力への信頼を示しているが…… 【写真:ロイター/アフロ】

 ジダンはクラブのスター選手であり、フロレンティーノ・ペレス会長が買い集めた“銀河系”の1人だっただけでなく、カルロ・アンチェロッティの指揮下でトップチームのアシスタントコーチを務めた経験も持っている。ゆえにレアル・マドリーが負のスパイラルにはまった際、どのような影響が生じるか十分に知っているはずだ。例えばCLのグループリーグでトッテナムに勝ち越され、グループ首位の座も守れなくなるように。

 ジダンは2015年にカルロ・アンチェロッティの身に生じた出来事も身近で見ている。就任1年目の13−14シーズンには01−02シーズン以降、遠ざかっていたCLを勝ち取りながら、彼は2年目の低迷を理由にクラブとの契約を延長することができなかった。現在のジダンと同様に、スターぞろいのロッカールームを1つにまとめるという最も困難な仕事を成し遂げたにもかかわらずである。

 ジダンはペレスがW杯後の契約を目指し、ドイツ代表のヨアヒム・レーブ監督との交渉を始めていることを知っている。さらにはレーブに断られた際の「プランB」として、トッテナムの躍進を支えるマウリシオ・ポチェッティーノを口説こうとしていることも。

 とはいえ、ジダンもいまさらそんなことに驚いてはいられない。彼はただ、冬の補強などをクラブに求めることなく、現有戦力への信頼を示し、誰が移籍することも望んでいないと繰り返し主張しているだけだ。

 ビッグタイトルを獲得したチームがその後に調子を落とすのは珍しいことではない。ましてやレアル・マドリーはわずか1カ月前にもUAEのアブダビでクラブW杯を制したばかりである。だがレアル・マドリーの辞書には「論理」も「忍耐」も存在しない。そして一時の不調で溜まったツケは、少し前まで想像もできなかった人物が払うことになるかもしれない。

 ひとたび悪循環に陥ると、進んで自らを破壊してしまう。レアル・マドリーとはそんな特殊な習性を持つクラブなのである。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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