Bリーグが築き上げたオールスターの価値 熊本に笑顔を届けた2年目の「夢の祭典」

大島和人

熊本出身、小林に求められた役割

熊本出身でヴォルターズに所属する小林は、「思い」がこもったプレーを見せてMVPに選ばれた 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 試合はB.WHITE(ホワイト)とB.BLACK(ブラック)に分かれて戦われた。27−27と同点で迎えた第2クォーター(Q)に15得点の大活躍を見せたのが熊本出身で、ヴォルターズに所属する小林慎太郎(ブラック)だ。

「2点はあえて取らなかった」という彼は、得意のスリーポイントシュートを狙い続ける。第2Q残り7分58秒にこの日の1本目を決めると、立て続けに3本連続で成功。10分間で「7分の5」の驚異的な成功率を示し、所属するブラックは61−57とリードして前半を終える。

 小林の実力や勝負強さもあるが、「思い」が決めさせたゴールだった。小林は振り返る。

「震災直後の開幕戦も1本シュートが入って、そこから連続で決めまくった。人の心に自分のプレーを残したいという気持ちが、ああいういいパフォーマンスを引き出してくれたと思います。何よりあの空間が後押ししてくれた」

 熊本出身の小林が活躍し、ブラックが勝利するというのは、その場にいた多くの人が望んでいた展開だったのだろう。小林も「コートに立ったら仲間たちが『打て』しか言わないんです。持ったら打てって言われていた」と振り返る。

 ただホワイトの選手たちは一切の「忖度(そんたく)」なしに、勝利に向かって全力を尽くすスポーツマンシップを見せた。シューター小林の持ち味を消しにきたのが、彼とマッチアップした古川孝敏と須田侑太郎(共に琉球)の2人。小林にとっては東海大の後輩でもある。

 古川はこう振り返る。「いつもと違う楽しみがあると思いますし、その中で華やかなプレーもあります。でも締めるところは締めてやらないといけないなと思っていた」

 小林は苦笑しながら振り返る。「あいつら打たせないんですよ。シーズンより打たせてくれないんじゃないかというくらいでした。後輩たちが必死に『やらせないぞ』と、2、3本入ったくらいから厳しくきていたんです。俺も火がついていました。もちろんお客さんたちの心に残したかったんですけれど、僕自身が一番楽しんでいましたね」

選手たちが見せた「ボケ」

次回開催地となった富山のグラウジーズに所属する宇都に、熊本の小林からボールが託された 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 最初はゆっくりとした展開だが、徐々にアスリートの本能が点火して「マジ」になっていく。熊本の一戦はそんな展開になっていた。

 小林は最終的に6本のスリーポイントシュートを決めたが、古川も後半にスパークしてスリーを5本成功。第4Qに突き放したホワイトが、123−111で試合をものにした。

 小林もチームは敗れたものの、ファンのSNS投票でMVPに選ばれた。厳しいマークを受けながらもスリーポイントを高確率で決め、何よりこの大舞台を一番盛り上げた。また「熊本を応援したい」という思いも、彼への投票につながったのだろう。

 小林や古川のスリーポイントシュートに限らず、選手たちがうまくメリハリをつけて「自分の得意なプレー」「いつもと違うプレー」を見せているところが印象的だった。オールスターになればスリーポイントやダンク、トリッキーなパスといった「魅せる」プレーは当然ながら増える。

 一方で篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)、鈴木達也(三遠ネオフェニックス)のようなポイントガードも、巨漢センターのようなポストプレーに挑んで場内を沸かせていた。逆にオールスターでは213センチのロバート・サクレ(サンロッカーズ渋谷)がドリブルでボールを運んでもいい。そういう「ボケ」が程よいスパイスとして効いていた。

大河「プロらしい選手にさらに成長した」

 ただしバスケットボールは映画や演劇でなく、筋書きのないスポーツだ。真剣さのないところには感動も生まれない。プレッシャーを跳ねのけてしっかりと結果を出した小林はもちろんだが、彼のシュートを止めようと必死に対抗した選手たちのプレーも称えられていい。緊張感と遊び心の両方があるからこそ、オールスターは面白くなる。

 大河正明チェアマンは試合後にこう満足顔で振り返っていた。「どうやったらファンが満足してくれるのかをよく考えながらプレーしてくれたということで、プロらしい選手に1年経ってさらに成長したと思っています」

 18−19シーズンのオールスター開催地は富山に決まっている。初回、2回目の会場はリーグ主導で決まった。しかし今後はNBAと同様に各クラブからの立候補を募り、全国各地を転戦していく方式になる。

 今回のオールスターは熊本の復興を後押ししつつ、「人の笑顔を増やす上質なエンターテインメント」として価値のある試合だった。このカードはNHK−BSやスポナビライブなどで中継され、Twitterのトレンドでは「#Bリーグオールスター」が1位になっていた。そういう「Bリーグの魅力を広くアピールする場」としても、しっかり機能していた。3回目以降に向けて、「下敷き」にできる部分の多いイベントだった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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