「まだやれる」前ヤクルト飯原の決断 地元栃木での挑戦と一つの心残り

菊田康彦

トライアウトを受けずにオファーを待つも…

ともにプレーし今季からヤクルトのヘッドコーチに就任した宮本氏(左)からのアドバイスも大きかったと飯原は語った 【写真は共同】

 ヤクルトのコーチ就任を固辞して横浜DeNAに移籍し、日本シリーズのベンチ入りメンバーにも入った田中浩康。右アキレス腱断裂の重傷を負い、千葉ロッテから戦力外通告を受けながらも、ヤクルトにテスト入団して2本の代打サヨナラ本塁打を放った大松尚逸。いずれも年齢的には一つ上になる彼らの存在も、飯原には大きな刺激になった。

「田中さんしかり、大松さんもそうですし、あの方たちが頑張っている姿を見てるから、まだ(現役で)やりたいっていうのもありました」

 結局、トライアウトは受けずに他球団からのオファーを待つことにしたものの、なかなか吉報は届かない。いたずらに過ぎる毎日、宙ぶらりんの立場で、何をしていても心ここにあらずの状態が続いた。

「つくづく下手くそだと思いましたね、切り替えるのが。もうヤクルトで(野球が)できなくなるってなって、引きずっている部分が絶対あったんですよ。どうしようっていう不安よりも、ぼんやりしてるというか、ただ日々が淡々と過ぎていく……。何もしてないといろいろ考えちゃうから、皿洗いなんかしたことないのにしちゃいましたもん(苦笑)。とにかくヒマな時間をなんとかなくそう、なくそうって考えてました」

 ヤクルトの2年先輩で、12年からMLBでプレーしている青木宣親も、自身もまだ今季の所属先が決まらない身でありながら、飯原を案じて連絡をくれたという。

「『青木さん、自分のことを心配したほうが』って言ったら『大丈夫だよ、オレは』って。ありがたいですよね」

栃木の球団で「地元に貢献できたら」

 そんな飯原のもとに、栃木県小山市をホームタウンとする独立リーグ、BCリーグの栃木ゴールデンブレーブスからオファーが届いたのは、師走に入ってからのこと。同市で生まれ育った生粋の栃木っ子にとって、17年に誕生したばかりの地元球団からの誘いは、願ったりかなったりだった。

「地元で野球をできる環境を与えてもらいました。僕はプロに入るまで栃木県小山市だけで育ったんで、いつかは地元に帰って貢献できたらっていうのはずっと頭にあったんです。将来的に大学で(指導者に)というのはありますけど、今はこの環境をいただいたので、地元に貢献できたらなって。県民球団なんで、栃木県を盛り上げていけたらいいなと思います」

 故郷の球団ではコーチを兼任するが、気持ちはまだまだ現役バリバリ。当然、NPB復帰も視野に入れている。

「やっぱりユニホームを着てやっているのが一番だと思うので、そこにこだわった以上は環境がどうあれ頑張ろうかなって。とりあえず前向きに自分がやれることをやって、自分も含め1人でも多くプロ(NPB)に送り出したいですね。厳しいのは重々わかってるんですけど、そういう気持ちでやってこそ、一緒にやってる選手にも伝わるものがあると思うんで」

ヤクルトファンに元気な姿を見せたい

 ゴールデンブレーブスには白鴎大の後輩で、ヤクルトの後輩でもある金伏ウーゴも在籍している。BCリーグ全体を見渡せば、ヤクルトでともにプレーした福島ホープスの岩村明憲監督に福井ミラクルエレファンツの田中雅彦新監督、昨年までヤクルトの投手コーチを務めた富山GRNサンダーバーズの伊藤智仁新監督や、13年までヤクルト2軍投手コーチだった新潟アルビレックスBCの加藤博人監督もいる。なじみの顔も多いリーグで新たなスタートを切る飯原だが、実は心残りがあるのだという。

「スワローズファンの方、応援してくれた方に何も言えてないっていうのが……。いきなりいなくなりました、みたいな感じになっちゃったんで、ヤクルトファンの方に元気でやっている姿を見せるのも、目標の一つですね」

 もちろん登場曲には、これまでどおりBoAの『Aggressive』を使用するつもりだ。

「流してもらえるなら、継続して使います。あれ、もともとは宮本(慎也)さんが(登場)曲に使おうか迷ってたんですよ。『Aggressive』ともう1曲あって『どっちがいいと思う?』って聞かれて、『僕はこっち(Aggressive)がいいと思うんですけど』って言ったら、『じゃあ、お前がそれ使え』って。宮本さんにそう言われて、ファンの方もあれだけ喜んでくれてたんで、もう変えるに変えられなくて使ってたんですけどね。(パトリック氏の)『レッツゴー、ヤスシ―!』はなくても、ファンの方が言ってくれたら嬉しいですね。栃木は(東京からも)近いので、スワローズファンの方にもフラッと来てもらいたいです」

『Aggressive』が神宮に流れることはもうないが、その代わりに今度は栃木の地で聞くことができる。その時は打席に入る背番号9、飯原誉士に向けて、1人でも多くのファンにありったけの大声で「レッツゴー、ヤスシ―!!」と叫んでほしい。

「BCリーグは厳しい目で見られていると思いますけど、いい方向に持っていけるようにやるしかないです」という飯原の新たな挑戦に、心からのエールを送りたい。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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