ダカールラリーに挑むサムライたち ホンダ、トヨタ車体、日野自動車の情熱
チームランドクルーザー・トヨタオートボデー(四輪市販車部門)
トヨタ車体の三浦昂(右)はラリードライバーと会社員の二足の草鞋を履く 【(c)トヨタ車体】
そこで三浦昂(あきら)はひたすらランドクルーザーで走り込んでいた。
トヨタ車体の社員である三浦は、07年からナビゲーターとしてダカールに参戦。15年まではナビゲーターとして活躍してきた。そして16年大会からはドライバーとしてダカールに挑戦するため、国内外で徹底的にトレーニングしていた。
ナビゲーターとドライバーは別物だ。2輪のライダーから四輪に転向する選手は多いが、ナビゲーターからドライバーというのは少ない。とにかく練習しかない。
私は恐る恐る、三浦の運転するランドクルーザーの助手席に同乗させてもらった。ナビゲーター時代から見ている三浦がマシンのハンドルを握るというのは、なんだかお尻がムズムズするような感じとともに、「大丈夫かな」という不安もあった。
この時の三浦のドライビングは、ビッグボディのランドクルーザーに翻弄(ほんろう)されている状態で、当人のその時の言葉を借りれば、「挙動をまだつかみきれていない」状態だった。
三浦が勤務するトヨタ車体のラリーチーム、チームランドクルーザー・トヨタオートボデーが参戦するのは、市販車部門。車そのものの性能が、勝敗を大きく左右する部門だ。
かつて、ダカールがアフリカを中心に開催されていた頃には、同部門はスピードというより耐久性が重視されていた。しかし南米に移ってからは、高速化が進み、市販車部門といってもスピードも必要とされている。
三浦は車そのものの「挙動」を知るために、乗用車タイプのラリー車に乗ったり、全日本選手権にナビゲーターとして出場したりと経験を重ねた。
福井で三浦は「いつかはドライバーをやりたいと思っていたので、ハンドルを握れるのはうれしいです。とはいえ、まずは完走を目指します」と語った。
16年のダカール、ドライバーとして初参戦した三浦は市販車部門で完走。チームメイトのニコラ・ジボンは部門優勝し、三浦は部門5位の成績。
そして17年大会に向けて、三浦はさらに走り込みを重ね、新しいチームメイトのクリスチャン・ラヴィエルが部門優勝し、三浦は大きくジャンプアップして見事準優勝となった。
注目したいのは三浦が17年大会では、何回かステージタイムでクリスチャンを上回っていた点だ。クリスチャンは、ダカールを熟知したプロドライバー。三浦は着実に進化していた。
その後、三浦は管理職となり、業務はさらに多忙を極めた。それでも時間を見つけてはトレーニングを重ねた。
17年11月下旬。愛知県にあるオフロードコースに三浦の姿はあった。
私は2年ぶりに同乗させてもらった。
三浦はランドクルーザーの挙動を完全に理解し、ドライビングは以前と別物だ。そして一番変化を遂げていたのは、その「顔」。ナビゲーターからすっかりドライバーのそれに変貌していた。
18年大会の目標をと聞くと即座に返ってきた。
「準優勝ではなく、優勝しますよ」と。