“世代最強FW”安藤瑞季とはどんな選手か  埋もれた逸材の「日本人らしくない」個性

川端暁彦

森山監督、影山監督も安藤の個性を評価

森山監督(写真)も「今どき珍しいタイプ」と安藤の個性を評価する 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ちょうどそのころ、3月に行われるサニックス杯国際ユース大会を戦うU−17日本代表の指揮を執ることになった森山佳郎監督は抜てきすべきタレントがいないかと探していた。森山監督が預かっていたのは00年生まれ、つまり安藤の一つ下の世代だったのだが、このときは臨時で上の世代の指揮も執ることになっていたからだ。過去にこの世代の代表になった選手のデータはある。しかし、「U−17くらいからグッと伸びてくる子、刺激を与えるべき選手が他にも絶対にいる」という確信が森山監督にはあった。

 時間が限られる中で関係者のヒアリングをして回る過程で浮上してきたのが安藤である。選ばれた本人もビックリの大抜てき選出だったが、これが吉と出た。九州内の活躍で高校サッカーのレベルでは十分に戦えるという実感を得ていた安藤にとって、その上の領域に達している選手たちと一緒にプレーできた刺激は大きかった。いまも「兄貴」と慕う一つ年上のFW田川亨介(サガン鳥栖)にも、二つ年下の麒麟児(きりんじ)久保建英(FC東京)にも大いに触発され、新たな闘志に火が付いた。「まだまだ足りない」。自然とそう思える幸運な出会いだった。

 今年に入ってU−18日本代表を指揮する影山雅永監督も安藤の個性を高く評価する。くしくも森山監督の評価とかぶるのが、「今どき珍しいタイプ」という言葉だ。とにかく体を張る。労を惜しまない。ゴールへ一直線で、ストレートな感情表現を繰り返す。そのすべてが希少なものに映るようだ。

氷点下二桁、厳寒のモンゴルで半袖でプレー

極寒のモンゴルで半袖で登場した安藤。これには現地のモンゴル人も「クレイジー」と口をそろえた 【川端暁彦】

 影山監督指揮下で初めて臨んだ2月のスペイン遠征”コパ・デル・アトランティコ”ではアウェーでスペインを撃破するチームの一員として活躍するのだが、そこでこんな場面があったそうだ。安藤がいつの間にか腕を軽くすりむいて、出血していた。主審から治療のために外へ出るように命じられると、なんと地面で腕の血をぬぐい、すでに「止血」していることをアピール。そのままプレーを続行してしまったのだ。

「もう日本のベンチも『ウソでしょ?』という感じで、もちろん後で『大丈夫なのか』と確認しましたけれど、でもあれが安藤なのかと納得しました」と笑って振り返ったのはU−18日本代表の秋葉忠宏コーチ。リオデジャネイロ五輪代表のアシスタントコーチでもあった秋葉氏から見ても、安藤はやっぱり「珍しい」タイプなのだと言う。この大会でU−18日本代表はアウェーでスペインを破り、安藤自身も現地関係者から注目を集めるのと同時に、新しい監督・コーチからも国際舞台で戦える選手と認識されるようになる。

 今年10月のAFC U−19選手権予選での活躍も印象深い。氷点下二桁になる日もあった厳寒のモンゴルで、安藤だけなぜか半袖で登場。「ポリシーなんで」と言い切り、丸刈り頭の突貫小僧は現地モンゴル人も「クレイジー!」とビックリした格好で風の子のようにピッチを走り回った。ファイティングスピリットむき出しで戦う姿勢を見せるその姿は、初めて彼を見たモンゴル現地邦人の方々にも一般人にも大好評で、彼がボールに絡むと大声援が飛んだ。本人の憧れは大久保嘉人なのだが、やっぱり中山雅史や岡崎慎司の後継者になってほしいタイプである。

 選手権は高校3年間の集大成の場だ。「日本人らしくない」というと少し違って、「現代日本人らしくない」個性を持つ稀有(けう)なストライカーが、モンゴルよりはだいぶ暖かい日本のピッチで何を見せてくれるのか。きっと初めて彼を見る人をも自然と振り向かせるような「ゴリゴリの姿勢」は変わらないだろう。ぜひスタジアムで、この「珍しい」選手を見てもらいたい。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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