球場の特徴がわかる「パークファクター」 初めてのセイバーメトリクス講座(6)
日本シリーズ第6戦の9回、レフトのホームランテラスへ起死回生の同点ホームランを放ったソフトバンクの内川 【写真は共同】
一発が勝敗を左右した日本シリーズ
カネシゲ:横浜DeNAファンの僕としては、楽しくもあり、悔しくもありでした。
鳥越:僕は『デイリースポーツ』でこの日本シリーズの展望を書かせていただいた時に、今回の舞台となったヤフオクドーム(ヤフオク)と横浜スタジアム(ハマスタ)ではホームランが勝負の決め手になるなと言っていました。そうしたら第6戦ですよ。山崎康晃(DeNA)が出てきて……。
カネシゲ:ああ、内川聖一選手(福岡ソフトバンク)に土壇場で打たれましたね。先生の予想通りだ。
鳥越:なぜなら、ヤフオクドームも横浜スタジアムも、ホームランが出やすい球場だったからです。このホームランが出やすい、出にくいを測る指標のことを「ホームランパークファクター」と言います。
カネシゲ:響きがカッコイイ。野球ファンなら一度は知ったかぶりして使ってみたい言葉ですね。
鳥越:ははは。ここでしっかり学べば「知ったかぶり」ではなくなりますよ。ではパークファクターの基本的な計算式を見てみましょう。
ホームランパークファクター={(本拠地球場での本塁打+本拠地球場での被本塁打)/本拠地球場での試合数}/{(他球場での本塁打+他球場での被本塁打)/他球場での試合数}
カネシゲ:ほう、わかるようでわからない数式ですが……。
鳥越:簡単です。例えばベイスターズで考えると、「ハマスタでホームランを打った本数と打たれた本数を足して、それを試合数で割った数」、これが分子になります。
カネシゲ:なるほど。つまり“「本塁打+被本塁打」の1試合平均”ってことですね?
鳥越:その通り。そして「ベイスターズが他球場で打ったホームラン数と打たれたホームラン数を試合数で割った数」、これが分母になります。その比率がパークファクターになります。
カネシゲ:そうか。ホームチームの全ホームラン成績で比較して算出するんですね。
鳥越:そういうことです。本拠地球場が他の球場と比べてほぼ変わらなければ、この数字は「1」となります。数字が「1」より大きければ、その球場は他球場よりもホームランが出やすい、「1」より小さければホームランが出にくいと見ることができます。
パの球場でホームランが出やすいのは?
【資料提供:鳥越規央】
カネシゲ:屋根がなくて「西武球場」と呼ばれていた頃ですね。たしかに広いイメージがありました。
鳥越:それがいまや他の球場より1.4倍ホームランが出やすいということです。そしてヤフオクドームは「1.251」でそれに次ぎます。
カネシゲ:これは2015年から登場したホームランテラスの影響ですよね。日本シリーズの内川選手のホームランも、テラスに入ったものでした。
鳥越:そうです。テラスがない頃は、あの高いフェンスが阻んで一番ホームランが出にくい球場でしたから。
カネシゲ:極端ですよね。従来の二塁打、三塁打がホームランになってしまうんだから。
鳥越:そして、最下位はZOZOマリンスタジアムの「0.647」。マリンは出にくいんですよ。
カネシゲ:こ、こんなに? 確かにロッテはホームラン打者が少ないイメージですが、球場のせいでもあったんですね。
鳥越:球場が広いうえに、海風の影響も大きいと思われます。
カネシゲ:そして札幌ドームは「0.905」、京セラドームは「0.819」。この2球場もホームランが出にくいと。
鳥越:はい。シーズンによって数値に誤差はありますが、今年はこういう結果が出ました。
セで最もホームランが出にくい球場は、やはり……?
【資料提供:鳥越規央】
鳥越:1992年にラッキーゾーンを撤去したというのもありますし、ライトからレフトに吹く浜風の影響もあります。どうしても左打者は不利になってしまう。
カネシゲ:タイガースが常に右打ちの長距離砲を熱望している理由ですよね。
鳥越:メジャーで2年連続20本塁打以上、韓国プロ野球で16年、17年と2年連続30本塁打以上放った右打者ウィリン・ロザリオの加入でホームラン量産が期待できますね。そして甲子園の次にホームランが出にくいのはナゴヤドーム(0.644)、そしてマツダスタジアム(0.774)と続きます。つまりセの本拠地は、西の3球場がホームランが出にくくて、関東の3球場が出やすいということになっています。
カネシゲ:なかでも神宮球場が「1.673」! 12球団でも一番出やすい球場だったんですね。横浜スタジアム(1.319)や東京ドーム(1.331)よりも出やすかったとは。
鳥越:そうですね。ちなみに神宮球場は2020年の東京五輪後に建て替える計画のようですが、自チームが有利になるような形状にしても面白いですよ。MLBでは左右非対称の球場がありますよね。自分のチームに左打者で優秀な選手がいたからライトフェンスを低くする、とか。ライバルチームに右の強打者がいたら左に壁を作ろう、とか。
カネシゲ:ヤフオクドームのテラスなんかは、「打てる選手が多いから作ろう」って発想もあったんでしょうか?
鳥越:それはあるでしょうね。ただ当然ですが、痛し痒しで被本塁打も増えます。でもソフトバンクの場合はリリーフピッチャーが優秀だから、勝負どころでは打たれまい、という算段だったかもしれません。「ホームランを見たい」という孫正義オーナーの意向もあったようです。
カネシゲ:ホームランは野球の華。気持ちはわかります。