中日・森野を主力に導いた地獄の日々 「みんなキャンプを話題にするけど…」

週刊ベースボールONLINE

飛び抜ける選手がいるか、そこしか見ない

現役時代は勝負強い打撃を持ち味とした。引退後は指導者として「最後まで一緒になってやってあげたい」と抱負を語る 【写真:BBM】

──森野さんの特徴として、レギュラーとなってもさまざまな打順、ポジションをこなしたことが挙げられます。07年には142試合で打率2割9分4厘を残しましたが、バッテリー以外の全ポジションに就きました。多くの役割をこなせた秘訣(ひけつ)は何だったのでしょうか。

 それは、話をさかのぼった4年目の取り組みですよね。野球を覚えないといけないという。いろいろなところでの技術、野球観を一つひとつ見直し、基本ができていたからではないでしょうか。僕の中で「できない」というのが嫌なんです。「お前、セカンドできるのか」と聞かれて「できません」とは言いたくないんです。そのためにも何か、「こいつだったらできるんじゃないか」というものがないと使ってもらえない。そこでうまく使ってもらいました。

──現在の球界では非常に特異な起用のされ方です。

 そうですよね。クリーンアップに座るくらいの選手が、コロコロポジションを変わっているのはあまり見ないですから(笑)。

──守備位置が日々、変わることの負担は。

 僕の中では全然。楽しみながらやっていました。「できるかな。練習しとかなきゃな」と。慣れは必要ですよ。まったくやっていない場所をやるのは怖いですけど、そのころは外野が基本で、内野は経験がありましたから。グラブは大変でしたよ。ファーストミット、内野用、外野用が必要で、すべて壊れたときのサブを用意しないといけない。毎試合毎試合、6個は持っていましたね。

──主軸に座ることのできる打力の持ち主がさまざまなポジションに就けるのは、チームとして貴重な戦力だったと思います。

 本当はみんな、そういう選手になってほしいですが、すごく飛び抜けたものがあるなら一つのポジションを奪えばいい。僕はどちらかといえば、さまざまなポジションをこなすことが、レギュラーを取るための道の一つだったのだと思います。

──現役時代、ここだけは人より優れている、あるいは負けたくなかったという部分はありますか。

 野球に対する知識であったり、野球を考える力というか、こうしたらもっと相手が嫌がるかな、ということをつき詰めたり。僕、ルールブックなどをよく読むんですよ。誰も知らないことを知ろうとする探究心は負けたくなかったですね。野球が好きじゃないと絶対にできないと思うんですよ。ただ漠然と投げて、打ってという選手にはなりたくなかった。野球をするならその根本のところを知らないといけないとは思っていました。

──すでに打撃コーチとして指導を始めていますが、現役時代とのギャップで苦労したことはありますか。

 苦労していますよ、今(笑)。まだ指導というようなことはしていませんが、「ここまでできていないのか」と感じることはありますね。「何とかしてうまくなろう」という意識が伝わってこない選手がいて、ただ漠然とやり出す。何かこちらから言わないと、妥協してしまって、いつもどおりにこなすだけの練習になってしまう。自分が何をしなきゃいけないか考えながら練習をできないんですよね。

──実際に森野さんがそうやって成長してきただけに、歯がゆさもある。

 ありますよ。単純なんですよ。「もっといい生活をしたいだろう。そのためには野球を頑張ればお金をもらえるぞ」という根本ですよね。それが夢なのであって、それなら野球がうまくならないといけない。じゃあ今、何をやらなければいけないのか。きついのは当たり前なんですよ。それにプラスして、自分の意識がうまくなりたいという方向に向かっているかどうか。今は正直、みんな団子状態で走っているようなものです。その集団からダッシュして飛び抜ける選手がいるかどうか。ちょこっと出て来るだけじゃ、またそこに戻ってしまうので。そういう選手が欲しいですね。

──目を光らせているんですね。

 そこしか見ていないです。それをやろうとした選手がドンと出て来るんじゃないかと思っています。

──最後に、ファンへのメッセージをお願いします。

 まずは突然の引退発表になってしまい、ゆっくりプレーを見られなかった方に申し訳ない気持ちです。でも、僕の中ではやり切った思いがあり、各地で球場に足を運び、声援を送ってくれたファンの方がいたからこそ頑張ることができました。本当に感謝しています。指導者としては、強いチームにするために、選手が応援してもらえるように手助けをしていきたいです。主役はあくまでも選手。やらせるのではなく、選手がやることに付き合う。きつい練習は一人ではできない。最後まで一緒になってやってあげたいですね。

(取材・構成=吉見淳司)

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