近藤明広、世界戦敗戦も残した価値 米国リングで日本人選手の評価を上げる
最後に脚を使われ番狂わせを起こせず
近藤(右)の世界初挑戦は、判定負けという結果に終わった 【写真は共同】
第6ラウンド終了とともに、リングサイドの記者席でとなりに座った「リングマガジン」の記者がそう声をかけてきた。
現地時間11月4日(日本時間5日)、米国ブルックリンのバークレイズセンターで行われたプロボクシングのIBF世界スーパーライト級王座決定戦も中盤ラウンドに突入。パワー、スピードに勝る同級1位のセルゲイ・リピネッツ(ロシア)が序盤を制したが、同級3位の近藤明広(一力)も1万924人の大観衆を集めた晴れ舞台で気圧されている様子はなかった。
5回に右ストレートを打ち込んで相手をよろめかせると、6回にはバッティングでリピネッツが額を激しくカット。ほとんどグロテスクなほどに鮮血が流れ落ちるのを見て、12戦全勝(10KO)で突っ走ってきたカザフスタン出身の28歳は少なからず集中力を乱したように見えた。
「ヘッドバッドのおかげで視界が遮られて、おかげで何発か不用意にパンチをもらってしまった」
試合後、リピネッツもバッティングによって不利を被ったことを認めていた。戦前は絶対不利と目されたベテランの近藤が番狂わせに近づくとすれば、チャンスはここしかなかっただろう。
しかし――。
9回以降は脚を使ってアウトボクシングを始めたリピネッツの前に、近藤は特に終盤は空回りを続けた。随所にジャブ、ボディは当てたものの、決定打を打ち込むには至らぬまま。惜しむらくは右を狙いすぎたように見えたことで、手数が減ったがゆえに相手に脅威を与えることはできなかった。
結局、大きな波乱がないままリピネッツは終了ゴングに駆け込む。発表された採点は118−110が1人、117−111が2人でいずれもロシア人を支持。千載一遇の好機を生かせず、32歳にして迎えた近藤の世界初挑戦は終わった。
小林会長は「勝てない相手でなかった」と落胆
実力的に完敗だったものの、採点ほどの大差がつく戦いではなかった 【Getty Images】
「採点はフェアなもの。多くのハードパンチを浴び、最後のラウンドは少なくともダウンを奪う必要があると感じていました」
激戦を戦い終えた近藤は、広報を通じてそんなコメントを残した。そして、日本メディアに「すみませんでした」と言い残し、検査のために近くの病院に直行する。「勝てない相手ではなかったと思います。でも判定が出てしまった以上は仕方ない」という小林一会長の言葉にも、隠しきれない落胆とともに、実力上位のものに敗れたという諦観が感じられた。
近藤のタフネスと頑張り自体は見事でも、世界タイトルを奪うにはやはりスキル、パワーが足りなかった。バッティングで相手が大出血した後でもつけ込めなかったのだから、完敗と言わざるを得ない。ただ……それでも初の渡米戦で、近藤のファイトが恥ずかしいものだったとは思わない。
「ファン、メディアもみんな接戦だと思ったはず。この採点はおかしい。IBFはダイレクトの再戦は認めていないので、それは難しい。しかしまた機会がもらえるように、少なくともランキングを5位から落とさないように尽力したい」
今戦で近藤のマネジメントを担当したショーン・ギボンス氏は、試合後に筆者を含む日本メディアを捕まえてそうまくし立てた。