ダルビッシュ、1回2/3でKOの理由 「ストライクを投げるまで」は修正も…

丹羽政善

「引き出しが足りなかった」意味とは?

降板後はベンチから戦況を見守るしかなかったダルビッシュ 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 スライダーといえば本来、彼の決め球である。8月半ばからのフォーム修正で、軌道を縦から横に変え、横に鋭くブレーキが掛かるようになった。その変化こそ、彼が求めたものでもあった。その点については先日の「ダルビッシュを科学する」という連載でも触れたが、ワールドシリーズ第3戦では、軌道が縦に変わっていた。
 何があったのか。

 実は第3戦の試合後、しきりに「スライダーが抜ける」とダルビッシュは口にした。

 リリースポイントを変え、手首の角度を変えたが、それでも抜ける。ようやく原因に思い当たったのは後日、『スポーツ・イラストレイテッド』誌の記者から、「ワールドシリーズのボールは、レギュラーシーズンのボールと違う。滑るんじゃないのか?」と指摘されてから。

「最初、ツルツルするっていうのは知らなかった。でも、リポーターの人に写真で違いを見せてもらって、それで初めて気がづいた。ボールを取り寄せたら、やっぱり全然違った」

 もちろん、その日の体調が影響した可能性も否定しなかったが、8月半ばから磨きをかけてきたスライダーが、あそこまでことごとく抜ける。アストロズでもスライダーをアウトピッチ(決め球)とするケン・ジャイルズも制球に苦しみ、第5戦の試合前に、クローザーを外された。何をか言わんや、である。

 ただもちろん、条件が同じである以上、ダルビッシュとしては、それを理由にすることはできない。第3戦が終わり、第7戦で先発するまでの4日間、ブルペンではワールドシリーズのゲームボールを使うなど、そのボールに合った投げ方を模索した。

 しかしながら、時間が足りなかった。

「ストライクを投げるレベルまでもってこられたんですけども、打者を圧倒できるレベルまで引き上げることはできなかった」

 修正は本来、彼が得意とするところ。ただ、「自分の引き出しが足りなかった」。ダルビッシュも認めるしかなかった。

言葉の端々ににじむ不甲斐なさ

 さかのぼれば、9月14日のジャイアンツ戦で、自身のピッチングについては、それなりの答えを見つけた。

「それから、それしか考えなくていい、という状態になった」

 しかし、野球が変わってしまっては、いかんともし難かった。それでも繰り返すように、相手にとっても条件は同じ。「これは、しばらく残る」。それを乗り越えられなかった不甲斐なさが、言葉の端々ににじみ、こんな言葉にもつながった。

「自分にすごく悪い日があった分、その逆で、素晴らしい日があった人が一人増えたっていうふうに思えば意外ときつくないんですけど、今日はドジャースの皆に迷惑をかけているので、それが通用するかどうか」

 ダルビッシュは今オフ、フリーエージェントになる。去就について聞かれると「ワールドシリーズでやり返したい――というのが絶対、もっと出てくると思うので、そういうチャンスのある球団がベストですけど……」と言ってから、約6秒間沈黙の後、静かに続けた。

「自分はドジャースでやりたいです」

 その機会がやってくるのか。

 いずれにしてもこのオフ、彼はプロに入ってから初めてフリーエージェントの権利を得て、決断を下すことになる。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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