楽天・岸孝之が移籍初年度に見せた熱さ その存在がチームの投手力を押し上げる

松山ようこ

見た目はスマート、気質は昔の野球人

今季から地元・仙台の球団である楽天に加入。「言い訳しない」姿勢がチームにもたらしたものは大きい 【写真は共同】

 岸は見るからにスマートで、女性ファンも多い。現代の野球選手をしても手足は長い方で、上下ジャージ姿でも見栄えするほどカッコいい。だが、対照的に、野球人としてはどこか昔気質を感じさせる。何を言われようとも余計なことは語らず、結果で見てくれと言わんばかりに、黙々と自分の“仕事”に没頭するのだ。真面目で礼儀正しいところも、際立って見える。

 また、そうした「言い訳をしない」姿勢が、周囲に与えた影響は大きい。春季キャンプでは、全体練習後も黙々と走り込みをするなど、マイペースながら驚きのハイペースで自主トレーニングをこなしていた。ブルペンでは新人が軒並みあぜんとするほど、精緻なフォームで投げ込みを続けていた。監督やコーチ陣が声をそろえたように、岸の加入がチームに与えた影響は大きく、春季キャンプから昨年以上に活気があったことが思い出される。

 移籍1年目の今季も終わってみれば、驚くべき集中力と練習量に裏打ちされた成績を残した。自己最多タイの26先発とフル回転。176回1/3を投げて、こちらも自己最多の189奪三振をマーク。奪三振率9.65は自己ベストで、リーグ5位の防御率2.76が光る。一方で、勝率は自己ワーストの4割4分4厘で勝利数も8勝(10敗)止まり。この成績は納得できるものではないのだろう。

 CSに入り、ファーストステージでは前述のとおり圧巻の投球を見せるも、福岡ソフトバンクとのファイナルステージでは「慎重に行きすぎた」と5回2失点で降板。後続が打たれてチームは敗れた。シーズン中にさかのぼれば、7月19日以降勝ち星をあげられていない。ファーストステージでの快投についても「しっかりゼロに抑えていれば、こういう展開になる。シーズン後半も自分が点を取られていた」と先発としてしっかりと抑えるべきと反省していた。

最後は3本柱で3連敗も来季の糧に

 楽天は、岸というエース格が一人加わったことで、則本の負担は軽減。美馬は7年目にして初の2桁勝利を達成した。相乗効果でこの3人は「先発3本柱」と呼ばれるまでになった。皮肉にもこの3人でファイナルステージは勝ち星を落としたが、それも来季の糧になる。

 そもそも楽天のここまでの躍進を予想した専門家は少ない。開幕前はほとんどがBクラスを予想したのだ。最後に崩れたとはいえ、ここまで覆してきた礎となったのも投手力。そして岸がその投手力を押し上げる大きな要因になったことも間違いない。

 投手陣は着実にレベルアップした。あとはいかに勝利するか。岸が勝てば、チームも勝つ。そんな“絆”を感じさせた終焉(しゅうえん)は、来季への希望でもある。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。翻訳者・ライター。スポーツやエンターテインメントの分野でWebコンテンツや字幕制作をはじめ、関連ニュース、企業資料などを翻訳。2012年からライターとしても活動をはじめ、J SPORTSで東北楽天ゴールデンイーグルスやMLBを担当。その他、『プロ野球ai』『Slugger』『ダ・ヴィンチニュース』『ホウドウキョク』などで企画・寄稿。2018年よりアイスクロス・ダウンヒルの世界大会Red Bull Crashed Iceの全レースを取材。小学館PR月刊誌『本の窓』にて、新しい挑戦を続けるアスリートの独占インタビュー記事「アスリートの新しいカタチ」を連載中。

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