不可解判定の払拭へ、完全決着狙う村田 日本ボクシングの盛衰懸けた『審判の日』

宮崎正博

両者の力関係はすでに明白である

エンダムも前戦の経験から、村田の強打対策は取ってくるはず 【写真は共同】

 では、再びの戦いに勝つためにはどうすればいいのか。村田は前戦でエンダムを蹂躙(じゅうりん)しながらも、結果的にKOできなかったのは事実だ。エンダムは今回、村田がその最大の持ち味とする強烈なプレッシャー、右の強打に対策をとってきているはず。

 そんな前提はあったとしても、村田側が前戦にとった戦法のあらましをもう一度なぞって戦うのが賢明だと思う。足の速さが自慢のエンダムがより大きなフットワークを使ってきても、慌てず騒がずに距離を詰める手立て、さらにここぞのKOチャンスでフィニッシュに持ち込むいくつかのパターンを、添付できていればもう抜かりはないはずだ。

 理由はひとつ。5月の戦いで両者の力量差は明白になっていると確信できるからだ。数年前の全盛のころ、エンダムのフットワークといえば、果てなく続くウサギの跳梁(ちょうりょう)のよう。接近するのもなかなかの難儀だった。しかし、村田戦以前から、はっきりとその足取りに衰えが見える。さらに、このエンダムはよほどのタイミングで当たらなければ、相手を一撃で打ち落とすようなパンチはもともと所持していない。パワーで断然上回る村田がきちんきちんと次の展開を準備しながら追っていけば、それほど難しい相手ではない。

絶好の仕上がりを予見させた村田の公開練習

17日の予備検診も異常なしと判断された2人。後は運命のゴングを待つだけだ 【写真は共同】

 12日、村田は帝拳ジムで練習を公開した。

「当然ながら気持ちの上でプレッシャーはあります。今の気持ちは自分ができること、しなければならないことを積み上げて戦っていくだけです」

 自分が置かれている立ち位置、望まれている結果をきちんと理解しているからの重圧である。だが、公開された練習の内容は、傍目からはかなり上質に見えた。帝拳ジムが海外から呼び寄せた3人のパートナーのひとり、アドリアン・ルナ(メキシコ)を相手にしたスパーリングは、ほんの軽めのものながら、縦横性に富み、堅実に追い込みが光った。田中繊大トレーナーのミットに打ち込むパンチにも迫力がみなぎる。

「前の試合の内容から勝って当たり前とも言われます。でも、自分はこの5カ月、一度もそんなふうに考えたことはない」。自分に対してどこまでも誠実に体、技術をより厚みのあるものにしてきた。だからこそ、現時点で納得できる戦力と状態を達成できたと予見できる。十分な準備が体中に行き渡り、「展開次第でKOを狙いたい」とも言い切れるようにもなった。

 一方、14日に来日したエンダムも16日、同じ帝拳ジムで練習を公開した。4度前転して、立ち上がってすぐさま連打をまとめ打ちする。ペドロ・ディアス・トレーナーのミット目がけて、右ストレートから鋭く左フックを切り返す。やっていることは前回とほぼ変わらない。あくまで基礎的なものの再確認だった。前者はどんな状況になっても平衡感覚を失わずに戦うための手立て。後者はショートレンジに誘い込んだときに、ジャストミートを心がける。いずれもイメージトレーニングに過ぎない。調子自体は読み取れなかった。

「12ラウンド、戦い抜くためのトレーニングをしてきた。それ以前に倒れるとしたら、僕じゃない。村田のほうだ」

 強気のコメントは、試合を盛り上げるためのリップサービスだったろう。

 17日、恒例の予備検診では村田、エンダムとも「体調に問題はない」とお墨付きが出た。さあ、戦いの準備はすべて整った。

 村田には自身の言葉どおりに『使命感』に追い立てられることなく、自然体の戦闘モードから自分の手法を貫いてもらいたい。そうすれば、中盤までに劇的勝利も十分に期待できる。

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著者プロフィール

山口県出身。少年期から熱烈なボクシングファンとなる。日本エディタースクールに学んだ後、1984年にベースボール・マガジン社入社、待望のボクシング・マガジン編集部に配属される。1996年にフリーに転じ、ボクシングはもとより、バドミントン、ボウリング、アイスホッケー、柔道などで人物中心の連載を持ったほか、野球、サッカー、格闘技、夏冬のオリンピック競技とさまざまスポーツ・ジャンルで取材、執筆。2005年、嘱託としてボクシング・マガジンに復帰。07年、編集長を経て再びフリーになる

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