MGCが生み出す長距離の意識改革 瀬古リーダー「日本のマラソン界変わる」
1人が記録を出せば続く選手はたくさんいる
9月のベルリンマラソンで自己ベストを更新した設楽悠太。彼らの中で1人、日本記録を更新する選手が出れば、続いていくだろう 【写真:ロイター/アフロ】
北海道で優勝した村澤にしてもしっかり準備をして記録を狙うレースに挑戦してもいいし、もう一度足元を固めるためのレースに挑戦してもいい。またMGCで戦うための経験として、ペースメーカーがいないシカゴマラソンやニューヨークシティマラソンなどで世界のトップ選手たちと真剣勝負をしてみるという選択肢もある。
「そうやってしっかり準備をした選手たちがガチンコで勝負するレースになるから、MGCは本当にプレッシャーがかかる大会になります。代表選考会のプレッシャーは本番より辛いものがあるんです。僕の現役の頃もそういう形で選手たちが全員集まってやっていたのでメチャクチャ緊張感がありました。日本選手権の100メートルなどと同じで、日本で一番を決める大会の緊張感を経験することが、世界にも通用していくと思います。日本で通用しない選手が、世界で通用するということ自体があり得ないわけですから。だからここでガチンコでやって一番強い選手が世界へ行くという、昔のようなワクワク、ドキドキするレースができるということで、選手たちもすごくワクワクしていると思います。その中で『あいつらにどうしたら勝てるんだろう』などとワクワクしながら考えている選手が勝つようになると思いますね」
五輪候補選手のみで戦うMGCは、本当の勝利の味を知るという意味でも重要だと瀬古リーダーは言う。押しつぶされそうなプレッシャーの中で勝つことは自信になるし、それをくぐり抜けて代表になった選手たちは、五輪本番では本気の挑戦者として挑めるようになる。
「ペースメーカーは付かないから、30キロからの駆け引きをガンガンやってほしいですね。本当はそこに川内選手あたりがやってきて、グチャグチャにしてくれたらもっと面白くなると思うんですが」と言って笑う。彼自身MGCシリーズに出場しなくても、国内外で開催されるレースに出場して2時間08分30秒を突破したり、2レース平均で2時間11分00秒という条件をクリアしさえすれば、出場資格を得られる立場にいるからだ。
「ただ、世界と戦うという面では日本記録を早く出してほしいというのはあります。男子100メートルで桐生祥秀選手(東洋大)が9秒98を出したことで、山縣亮太選手(セイコー)やサニブラウン アブデルハキーム選手(東京陸協)、ケンブリッジ飛鳥選手(ナイキ)などもすぐに9秒台を出しそうな雰囲気になってきましたが、マラソンも同じなんです。ケニア人選手たちがいくら記録を出しても本当の刺激にはならないのですが、同じ日本人が出せば『あいつが出せれば俺だって』ということになる。そういう点ではベルリンで2時間9分を出した設楽選手も、その前にチェコのハーフマラソンで日本記録を出すような新たな挑戦をしていて可能性は高いと思うし、自分をしっかり分かってマラソンに挑戦し始めた大迫選手も大きな可能性を持っています。それ以外にも井上大仁選手(MHPS)もそうだし、村山謙太選手や市田孝選手(ともに旭化成)など記録を出せそうな選手は何人もいるんです」
マラソン→トラックへの切り替えも可能に
マラソンがダメならトラックでの挑戦という切り替えも可能なシステムに。この試みが「日本のマラソン界も変わっていく」きっかけになると話す 【スポーツナビ】
これまでのように3月まで選考会を引きずっている場合だと、トラックに切り換えてもその準備期間は短かったが、このシステムなら半年以上の準備期間を取れる。
「男子1万メートルも今は3000メートルの強化から始めていますが、その距離のスピードがなければ1万メートルでも途中の揺さぶりに耐えられないからです。だから1万メートルの日本記録を伸ばすためにも、早く3000メートルの日本記録を破って欲しい。ですが、現実を見てみれば高岡寿成さん(男子マラソン日本記録保持者、現カネボウ陸上競技部監督)も大迫選手も3000メートルの日本記録保持者だし、私も学生時代には3000メートルで日本記録を出してその年の福岡国際マラソンで優勝しています。DeNAのビダン・カロキ選手も今年のロンドンマラソンを2時間7分41秒で走り、世界選手権の1万メートルでは26分52秒12の自己記録を出しているように、マラソンをやればスピード持久力が上がって1万メートルの記録も伸ばせるようになります。3000メートルから積み上げてきた選手たちがマラソンもやりながら1万メートルの記録をバンバン伸ばすようになれば、日本のマラソン界も変わっていくと思います」
東京五輪マラソン代表選考でのMGCシリーズとMGCの設立。それは選手たちの陸上競技に対する意識改革を促す手段でもあるのだ。