挑戦者として臨む王者・栃木ブレックス 田臥「新しいメンバーで、新しいバスケを」

大島和人

けが人の影響でチーム作りに遅れ

栃木は長谷川HCの下で今季再出発することとなった 【(C)B.LEAGUE】

 栃木は長谷川健志HCの下で再出発を果たした。外国籍選手としては198センチのオールラウンダーで、NBA経験もあるセドリック・ボーズマンと新たに契約。ギブスが故障者リストに入っている間の代役としてセンターのアンドリュー・ネイミックとも契約している。(※ネイミックも腰椎椎間板症で故障者リスト入りしており、代役の代役としてカイル・リチャードソンと10月5日まで契約)。ただラインアップのサイズは落ちている印象が否めない。

 またけが人の影響でチーム作りが遅れた。9月上旬のアーリーカップ関東は2回戦で千葉に56−88の大差で敗れ、3位決定戦も川崎に敗れている。

 長谷川HCは開幕前の準備について、厳しい状況を率直に認める。

「日本人選手のけがもあって、アーリーカップまで5対5ができない状態だった。(チーム作りが)遅れているのを感じます」

 ただ29日の開幕戦を前に、けが人はかなり戻ってきている。ライアン・ロシター、竹内といったインサイドの大看板も健在だ。昨季は負傷で全欠場した195センチのPF落合知也も復帰している。とはいっても古川と熊谷の抜けた穴は確実にあり、当面は遠藤祐亮と新加入の喜多川修平、鵤(いかるが)誠司らが3番(スモールフォワード/SF)に入るスモールラインアップを組むことになるだろう。

 加えて古川、須田、渡邉らの強力シューター陣に変わる存在を誰が担うかという問題もある。長谷川HCも「喜多川、山崎(稜)も悪くはないシューターですけれど、チームの役割の中でそれを発揮できるかは、これから少しずつになる」と口にしていた。

田臥が期待を寄せる新加入の鵤

広島から加入した鵤。田臥も「思ったことを伝えるようにしたい選手」と期待を寄せる 【(C)B.LEAGUE】

 チームのスタイルも当然ながら変わる。田臥は「基本は速い展開を目指すバスケット。5人全員でしっかり動いて、ボールだけでなく人の動きも作って展開する」と長谷川HCの狙いを説明する。一方で組織的なオフェンスを構築するには時間がかかり、実戦でまず試して磨くプロセスは必ず必要だ。

 新加入選手の中では鵤のプレータイムが伸びそうだ。鵤はB2広島ドラゴンフライズから加入した23歳で、185センチ・95キロの大型ガードだ。スキルが高く、パワフルなドライブを秘めている。強豪に移籍し、田臥とプレーを共にすることで、大きく飛躍する可能性がある。

 田臥はそんな後輩についてこう述べる。

「自分が下がっているときはPGでやることもできるし、2番(シューティングガード/SG)、3番(SF)とこなせる能力を持っているのが彼独特の強み。敵で見ていた時は『すごく若いし良いものを持っているな』と思っていましたけれど、一緒にやってより楽しみな選手だなと思うようになりました。気づいたこと、思ったことを伝えるようにしたいなと思わせてくれる選手です」

 チームの中で変わらないもの、変える必要がないものも当然ある。田臥はこう説く。

「入ってきたメンバーもブレックスの強さはチームで戦う部分、ファンの方と一体になって戦う部分だと感じていると思う。そこは自分たちの文化として持ち続けてやりたい。ディフェンス、リバウンド、ルーズボールといった泥臭い部分も最低限、このチームの武器として、ずっと大事にしていきたい」

 流れが悪い時間帯にも個人プレーに走らない、抜いたプレーがないという強みは、昨季の栃木を見て多くの人が感じた部分だろう。田臥のようなリーダーが中心となって築かれた、変わらぬカルチャーが再生に向けた基盤になる。

右肩上がりの成長が必須条件

 ただし今季の栃木に対する周囲の評価はおそらく厳しい。それについて田臥は強がりという雰囲気でなく、いつもの朗らかな調子でこう口にしていた。

「まったくもって気にしていないですね。それは皆さんが評価することで、自分たちで自分を評価する必要はない。去年は優勝という最高の形で終わったけれど、僕は完璧だと思っていないし、最後に結果があっただけ。僕らは過程を大事にして、最後にまとまってできた」

 もちろん今シーズンを楽観しているわけではない。しかし田臥は結果でなくまず過程にフォーカスし、そこにやりがいを見いだしている。

「昨年以上にプロセスを大事にしないと、とてもじゃないけれど結果を手に入れることは難しいと思います。ただそれをネガティブに捉えるのでなく、だからこそ作っていく楽しみがあるし、チャレンジしがいがある。まあ、そんな簡単にいったら面白くもないと思いますし」

 田臥はこう続ける。

「新しいメンバーで、新しいバスケットを作っていける。この年になってそういうチャレンジができることは楽しみです。シーズンは長いのでどう成長していけるか、させていけるか。そこに純粋な楽しみを感じています。でもやるからにはもちろん勝ちたいし、勝つためにできることに日々チャレンジしていきたい」

 トーマス・ウィスマン前HCの3シーズンで成熟していたチームは解体された。今季の開幕前を見れば前年度王者の余裕はなく、未知数な部分も多い。川崎や千葉に比べて人の入れ替わりが多いのだから、連係を一から作る難しさは間違いなくある。新生栃木が好成績を収めるためには、シーズンを通した右肩上がりの成長が必須条件だ。

 ただそんな挑戦と過程にこそ、今季の彼らを見守る楽しみがあるのだろう。王者・栃木はチャレンジャーとして、Bリーグ2シーズン目に立ち向かおうとしている。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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