ヴァイッドと一緒にロシアに行きたい! 単なる「予選突破」でない日豪戦の価値

宇都宮徹壱

明暗を分けた3つのターニングポイント

絶妙なタイミングで飛び出し、待望の先制点を奪った浅野。まさに「狙いどおり」のゴールだった 【写真:高須力】

 日本は悪くない入りから、前半2分で最初のコーナーキックを得た。キッカーの背番号は2。一瞬「誰だっけ?」と思ったら、最も若い(21歳)井手口だった。その後のセットプレーも井手口がキッカーを務め、世代交代が少しずつ進んでいることを感じさせる。一方でやや不安に感じられたのが、オーストラリアがガツガツ前に出てこなかったため、序盤はカウンター狙いの布陣があまり生きなかったこと。そして急造の組み合わせゆえに、連係面でのミスが多かったことだ(特に右サイドの酒井宏と浅野)。

 さて、日本の勝利に終わったこの試合には、明暗を分けた3つのターニングポイントがあったと思う。第1のターニングポイントは、それまで右サイドで機能していると言い難かった浅野が、前半41分に左足で放った先制ゴール。確かに同サイドでの連係は呼吸が合わなかったものの、浅野は井手口(前半16分)や長友(同35分)の逆サイドからのクロスに頭で合わせて、いずれも惜しいシュートを放っている。そして41分、長友からのピンポイントのクロスに対し、絶妙のタイミングで飛び出して待望の先制点をもたらす。当人が言うとおり、まさに「狙いどおり」のゴールであった。

 次のターニングポイントは後半25分、トーマス・ロギッチに代わってケーヒルが投入された時である。その9分前にはユリッチがピッチに送り込まれ(ジェームズ・トロイージとの交代)、空中戦に強い選手たちが前線に並んだ。ケーヒルに対する潜在的な脅威もあって、日本の守備陣はとたんに浮足立ってしまう。この時、オーストラリアがパワープレーに切り替えていたら、同点に追いつくことができたかもしれない。しかしポステコグルー監督は、あくまでポゼッションにこだわり続けた。「そういうサッカーをしたいと思っていたし、このフィロソフィーでソリューションを見つけようと思って追求した」とは当人の弁。この敵将のこだわりが、結果的に日本を救うことになった。

 そして最後のターニングポイントは、もちろん井手口の代表初ゴールである。後半37分、途中出場の原口元気(後半31分に乾と交代)がインターセプトしたボールを拾った井手口は、そのまま左サイドからドリブルで切り込む。そしてペナルティーエリア手前で放った強烈なミドルは、そのまま相手GKマシュー・ライアンのグローブをかすめてゴールネットを揺さぶった。この時間帯になっても、無尽蔵のような運動量でバイタルまでボールを運んだ一連のプレーは、確かに素晴らしかった。と同時に、このタイミングでの原口の起用もピタリと的中。2点目が決まる5分前にも、原口のチャンスメークから井手口が惜しいシュートを放つシーンがあり、日本の追加点は時間の問題であった。

代表監督に厳しすぎる日本のメディア

さまざまな困難を乗り越え、W杯出場というミッションを果たしたハリルホジッチ監督。だからこそ、共にロシアで戦いたい 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 この試合にはもうひとつ、決して派手ではないが印象的なシーンがあった。それは、後半41分に岡崎慎司が、そして44分に久保がピッチに送り込まれた時である。何という贅沢なカードの切り方だろう。そして3枚目のカードが切られた瞬間、本田と香川の出番は必然的になくなった。22歳と21歳のリオ五輪世代がゴールを決めた試合に、本田と香川がベンチから出ることがなかった──。この事実が意味するところは決して小さくはない。ハリルホジッチ体制がスタートしてからの2年半、多少の曲折や挫折を味わいながらも、日本代表は着実に世代交代が進んでいたのである。

 やがて、3分のアディショナルタイムを経て、試合終了。2−0で勝利した日本は晴れて6大会連続6回目のW杯出場を果たした。のみならず、2006年のW杯ドイツ大会でオーストラリアに逆転負けを喫した「カイザースラウテルンの悪夢」を払しょく。さらには「アジア予選でのオーストラリア戦未勝利」や「最終予選の初戦に敗れるとW杯に出場できない」といった、さまざまなジンクスを打ち破ることにも成功した。それらに加えて、日本代表の新時代を強く印象づけた今回の勝利。私自身、日本代表がW杯出場を決めた瞬間に立ち会ったのは4回目だが、過去3回と比べてこれほどうれしく感じたことはなかった。

 それだけに、試合後の会見でハリルホジッチ監督が一切の質問に答えずに退出した「ハプニング」については、本当に残念に思えてならない。ただしそれは指揮官本人ではなく、むしろ彼を取り巻く状況に対してである。「今日の試合の前に帰国することも考えた」という「プライベートの問題」が、具体的にどのようなものであったのか、現時点では不明だ。だが、それ以上に気になったのが、彼がそんな状況にあったときの一部メディアによるネガティブな報道ぶりである。「オーストラリア戦で引き分け以下なら解任」といった、何ら勝利に寄与することのない報道については、個人的に度し難いものを感じていた。

 そもそも日本のメディアは、代表監督に対して理不尽なほど厳しいように思えてならない。負けてたたかれるのは仕方がないとしても、引き分けに持ち込めば「勝てたはずだ」、手堅く勝利すれば「内容が面白くない」、会心の試合をすれば「相手のコンディションが悪かった」──その繰り返しではなかっただろうか。今年に入ってグループの首位をキープし、着実に世代交代を促進させ、しかもライバルに完勝した上で、W杯出場というミッションを果たしたのである。だからこそ私は、声を大にして言いたい。「ヴァイッドと一緒にロシアに行きたい!」と。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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