全米オープン、躍進の杉田に注目 女子は大坂&“花の94年組”に期待

内田暁

大坂なおみは前年女王と初戦

昨年の全米では悔しい敗戦を喫した大坂。仲間の存在も力にして、大会に臨む 【写真は共同】

 女子の方では、初戦で第6シードのアンゲリク・ケルバー(ドイツ)に挑む大坂なおみ(日清食品)に、やはり注目が集まる。開幕前日の練習では、ケルバーと同様に左利きの土居美咲(ミキハウス)相手に、サウスポー特有の回転や球筋を打ち返す感覚を確かめた。
 ケルバーは昨年の全米優勝者であり、その前年女王との戦いの舞台には、センターコートが用意される。大坂にとってセンターコートは、昨年第8シードのマディソン・キーズ(米国)と対戦し、最終セットで5−1とリードしながら逆転負けを喫した、苦い思い出が染み込む戦地。それでも経験豊富な19歳は、「今の自分は、あの時よりはるかに良い選手。去年の出来事は過ぎたこと」と、特別な意味を付与しない。昨年の経験から学んだことはと問われると、チャーミングな笑顔を浮かべて「泣かないこと」と即答。コートで涙を流すほどに孤独を抱えた戦いを、ユーモアを交えつつ、過去は過去として流した。

 昨年、その涙の敗戦を喫した直後にダブルスにも出場した大坂が、ペアを組む奈良くるみ(安藤証券)とコート上で笑顔を交わす姿は、爽やかな印象を見る者たちに残した。「つらい負け方をしたなおみちゃんに、ダブルスでは楽しんでもらいたい」。そう願った奈良はプレーを楽しむことに努め、ベンチでは試合とは無関係な話題でも談笑したという。

 そんな“仲間”たちの存在は、ツアーを本格的に回りはじめて2年目の大坂の、旅の孤独を癒やしていく。例えば今年2月、国別対抗戦フェドカップに初めて日本代表として出場した大坂は、「(土居)美咲ちゃんが、あんなに面白い人だとは知らなかった。絵莉ちゃん(穂積絵莉、橋本総業ホールディングス)は、食事の時に私のお皿に色んな食べ物を取り分けてくれて、まるでお母さんみたいだった」と、チームメートに関する新発見をうれしそうに話していた。

10人が出場する日本女子 同世代で切磋琢磨

 仲間……すなわち身近なライバルが生む相乗効果は、今大会単複合わせて10人が出場する日本女子勢の潮流を物語るキーワードだと言えるだろう。その最たる例が、1994年生まれの選手たち。シングルス本戦出場の日比野菜緒(ルルルン)と尾崎里紗(江崎グリコ)、さらにダブルスの穂積と加藤未唯(佐川印刷)、そして二宮真琴(橋本総業ホールディングス)の5選手は同じ年に生まれた同期。彼女たちはいずれもジュニア時代から互いを知り、しのぎを削ってきたライバルでもある。

 先のウィンブルドンでダブルスベスト4の結果を残した二宮は、ベスト8に入った時点でもまだ、「あの二人に追いついていないので」と笑顔を見せることはなかった。二宮が言う「あの二人」とは、1月の全豪ダブルスでベスト4入りした穂積と加藤。彼女たちに追いつき追い越したいという明確な目的意識が、二宮の原動力となっていた。
 あるいは「ツアー生活は楽しい」と笑顔を見せる加藤も、「もし他に誰もいなかったら、難しかったかも」と、同期の存在の大きさを認めている。コート上では刺激を与え合い、オフコートでは私生活をはじめ、好きな本やドラマについて会話に花を咲かせる友人たち――。明るい声を上げ、笑顔で坂道を競い駆け上がるかのような疾走感と若いエネルギーが、今の日本女子テニスの中枢にある。

 テニスは究極の個人競技だと言われ、その戦いの結果は、どこまでも個人に帰属する。それでも身近な存在の活躍が生む火花は、次々に新たな導火線に火を点ける。その一連の連鎖反応こそが、今回の全米オープン日本勢の、最大の見どころになるはずだ。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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