アジア代表が語るUFCビジネス戦略 世代に合わせたタッチポイントの増加を

長谷川亮

2年ぶりとなるUFC日本大会が9月に開催。拡大が続くUFCにおける、日本マーケット戦略とは? 【スポーツナビ】

 世界最大の総合格闘技団体UFCの日本大会「UFCファイトナイト・ジャパン」が9月23日に、埼玉・さいたまスーパーアリーナで開催される。UFCの日本大会が開催されるのは2年ぶり5回目。メインカードのマウリシオ・“ショーグン”・フア(ブラジル)vs.オヴィンス・サン・プルー(米国)によるライトヘビー級ワンマッチのほか、佐々木憂流迦、井上直樹の凱旋試合、パンクラス王者の阿部大治、近藤朱里(朱里)の初参戦も発表されるなど、大会に向けて注目度が高まってきている。

 1993年に米国で誕生したUFCは、数年間で急成長を遂げ、今では全世界で開催され、テレビで視聴される格闘技イベントとなった。またその人気はアジアにも広がりを見せ、ある調査会社調べでは、アジアの8つの地域(シンガポール、インド、中国、韓国など。日本は含まれない)の中でダントツで視聴される格闘技コンテンツとなった。

 また昨年にはグローバル企業の「WME−IMG」グループがUFCを4200億円で買収し、今後は同グループのコンテンツとして、より世界の人々に届くように成長していくだろう。

 今回、UFC日本大会のプロモーションに合わせて来日した、UFCアジア太平洋地域統括責任者のケビン・チャン氏に、日本やアジアにおけるUFCのビジネス戦略について話を聞いた。

日本は「世界の中でも非常に重要なマーケット」

ケビン・チャン氏は日本のマーケットをほかのアジアとは違うと話す 【スポーツナビ】

――アジアにおけるUFCの受け容れられ方は、欧米とは異なるところがあるのでしょうか?

 アジア自体がすごく大きく、文化的にも多様性がある地域です。まずそこがほかのマーケットと比べて大きく違っているところだと思います。国によって特徴があり、好き嫌いもありますから、一口に「アジア」と決めつけて臨めないです。

――その中で日本のマーケットについては?

 日本はMMA、格闘技が深く根付いていて熱心なファンがいる国で、他のマーケットとかなり違うところがあると思います。格闘技の長い歴史と土壌があり、先日、UFCの殿堂入りをされた桜庭和志選手が顕著なように優れた人材を生み出してきました。そういったMMAにおけるパイオニア的存在を生み出した地でもありますし、UFCが成長する上で世界の中でも非常に重要なマーケットだととらえています。

――昨年は日本大会の開催がありませんでしたが、世界のほかの地域と比べ、日本ではまだまだUFCが根付いていないよう思います。日本でよりUFCを広めるためには何が課題であるととらえていますか?

 前回の日本大会が行われた2年前と現在では世界の状況、そしてUFC自体も変化を遂げています。当時と比べて現在はメディアパートナーの数が大きく違っていますし、世界的に言えば、UFCもより広い層に受け容れられるようになりました。
 特に若い層やミレニアル層(=2000年代以降に成人を迎える世代)と言われるファンたちに人気を得ていますが、これはUFCが様々なコンテンツを配信し続けてきたことで、より多くのファンにスポーツとして認められるようになったのだと思います。そういった意味では、日本でも同じように、より配信の機会を多くし、より多くのファンを獲得しなければいけないと思っています。

――現在日本でもUFCを視聴できるメディアが増えています。今後、試合の配信に関してはどのような形になっていくのでしょうか?

 やはり今後の方向性としては、いろいろな層に、その層が望んでいるコンテンツを、その層がよく使うプラットホームで配信することを効率よくやっていきたいと思っています。
 例えば、スポーツナビにはハイライト動画を入れたり、ペイ・パー・ビューのイベントはDAZNで生配信。FOXでも録画放送を流したりと、いろいろなメディアプラットホームでファンとのタッチポイントを増やしつつ、それに合ったコンテンツを提供していきたいです。
 UFCは試合のライブが1番のプレミアムコンテンツだと思っている方も多いと思いますが、カジュアルなファンはKOや決着シーンを集めたものが見たいかもしれないし、もっと選手のライフスタイルに焦点を当てたものを見たいと思っているファンもいるかもしれません。ですので、そういったコンテンツを多岐に渡って用意し、様々なセグメントにアプローチしていくことを今まで以上にやっていきます。その部分に力を入れることで、これまでアプローチし得なかった層に対してもアプローチができると考えています。

WME−IMGの買収によりグローバル化が進む

昨年の買収によってUFCはよりグローバル化が進んでいる 【Getty Images】

――昨年、UFCがWME−IMGグループに買収されましたが、それによる変化はあるのでしょうか?

 私がUFCに関わった頃はまだFOXと契約する前で、米国ではSpike TVで放送されていました。ですから、まだUFC自体が米国国内のスポーツという認識でした。
 ただUFCもグローバル化が進み、その流れでブラジルやカナダ、中国といった場所にオフィスを構え、各国でビジネスを増やしているところでした。その中で昨年の買収がありました。
 WME−IMGはすでにグローバルビジネスを進めて実績のある企業です。それに加えスポーツだけでなく、エンタテイメントや音楽などの分野でも成功を収めています。そのスピードに乗って、さらにグローバル化を推し進めていけると思っています。

 彼らが持っているのは、新人を押し上げスターを作るタレントマネジメント能力です。そこが長けているので、パートナーとしてその部分を促進していけると思います。

――今後もグローバルスポーツとして、UFC規模がさらに拡大・成長していくのでしょうか?

 WME−IMGのマネジメント力で、今後はいろいろな地域で、その地域に合ったコンテンツだったり、新人やスターを生み出していけると思います。

 コンテンツにしても、それがもしかしたらフィットネスだったり、ほかのスポーツとのタイアップだったりするかもしれないですが、より可能性が広がってビジネスも多様化すると思っています。

今後も誰もが見たくなるコンテンツを

井上直樹のような新たなスターを生み出してくことが、ビジネス戦略の鍵となる 【スポーツナビ】

――またUFCの大会とは別になりますが、8月にはボクシングのフロイド・メイウェザーvs.コナー・マクレガー戦が注目を集めています。UFCの2階級王者であるマクレガー選手が、ボクシングの無敗王者・メイウェザー選手の復帰戦を務めるということで、UFCがボクシングを巻き込んだ一戦と見ることができますが?

 今後こういった試合は2度と見られないかもしれないというかなりスペシャルな話だと思います。そういった意味では、UFCの存在を知ってもらう機会になっていますね。この試合はボクシングファンやUFCファン、さらにはスポーツファンだけでなく、一般の人も見たいコンテンツになっており、今後、UFCもそういった誰もが見たくなるコンテンツを作っていく必要があると思っています。

――最後になりますが、日本のファンは2年ぶりとなる大会を待ち望んでいました。今後の日本での展開についてもお伝えください。

 UFCのブランドに触れられる機会である「ライブイベント=大会」を開催していくことは大事ですので、これは継続していきたいと思います。また、選手の発掘や育成という部分は今後もっとやっていきたいと思っています。
 また今大会に出場する井上選手のように、若い選手を生み出す土壌、長い歴史を日本は持っていますから、今後は彼のような選手がどんどん増えていくはずです。近藤朱里選手の初参戦も決まりましたが、そういった形で今後も新しいUFCの選手が、日本から出てくることは約束できます。
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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