田中将大、早くもワースト被弾数も… マリナーズの打者が感じた復調の気配

丹羽政善

「これまでと変わらない」と語るクルーズ

田中は4回以降は快投し、復調の気配を感じさせた 【写真は共同】

 過去、18打数1安打7三振と田中にカモにされ、10年ほど前、一時は楽天への移籍を考えたというネルソン・クルーズも、「何か変化を感じたかって? いや、これまでと変わらないと思う」と首を傾げるばかり。今回は3打数で内野安打1本。彼にしてみれば、相変わらずタイミングが取りづらい相手のよう。

「対戦の数が少ないうちは投手が有利だと思う。それに対して打者が適応していく。それに対して今度は、投手が適応する。投手と打者はそれを繰り返すが、俺の場合、まだ、初対戦の頃と状況が変わらない(笑)」

 2打数無安打1死球だったカイル・シーガーも田中が4月、5月に苦しんだことが信じられないとでも言わんばかりだった。

「今まで対戦した彼と特には変わらない。低めの制球がいい投手だ」

 1打席目は、低めのスライダーを振って三振に倒れた。

「低めの場合、どうしてもスプリットが頭をよぎるから、スライダーが来ると合わせにくい」

 三振に仕留めた球は本来、捕手が内角低めに構えていたので、田中は、左打者の後ろ足に曲がっていくバックフットスライダーを投げようとしたのだろう。しかし、シーガーの頭にはスプリットが意識にあるので、多少コースが違っても、対応が難しい。「動きが違うから」。

 そのバックフットスライダーだが、実はダルビッシュ有と投げあった6月23日の登板ぐらいから使用頻度が増え、伴って投球の幅が広がったようにも映る。3回、カノから三振を奪ったのも、バックフットスライダー。左打者にとっては、やっかいな球だ。

踏ん張るところを踏ん張れず

 もっともこの日には限っては、そのバックフットスライダーが皮肉にもピンチを招き、与えてはいけない2失点につながっている。3回、2死一塁、ここでシーガーを迎えた田中は、追い込んでからバックフットスライダーを投げたが、体に近すぎてシーガーの左足に当ててしまった。直後、連続タイムリーで2点を奪われ、田中が試合後、もっとも悔しげに振り返った場面だった。
 
「ランナーをためられて、2点を追加されたところが一番くい止めるべきところだった」

 2本の本塁打以上にシーガーへの1球と2死からの連続タイムリーは、後味の悪さを残した。ただ、「ある意味どうしてこうなっているか分かっている分、納得できるというか、こういう結果が出てしまっていることに対して、納得はできます」と田中。あとに引きずるほどではないのかもしれない。

 ところで、「今年だけじゃない」と岩隈が言っていたことを、後でもう少し掘り下げてみた。

 するとどうやら、15年のオールスター明けから、徐々にボールが飛ぶ傾向が出ているよう。『The Ringer』というサイトに掲載されていた「The Juiced Ball Is Back」(6月14日付け)という記事に詳しいデータが出ていた。そのホームランに関するデータは近いうちにまとめたいが、そういう確かな傾向が出ている以上、今度は投手が適応していかなくてはならない。

 田中はそこで、どう答えを見つけていくのか。

 復調気配が漂う中で、それを確かなものとするため、想定外のことをどこまで想定し、その可能性をつぶしていけるかが、今後の結果にもつながっていくのかもしれない。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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