将来が見えないバルサ、責任は誰にある? スタイルの変化と問われるメッシの起用法

「伝統」を放棄し、効率重視のスタイルへ

チャンスメーカーとしての色合いを強めていくのか、フィニッシャーの仕事に専念するのか。メッシの扱い方が問われている 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 ネイマールの獲得オペレーションに関する不正疑惑、FIFA(国際サッカー連盟)の補強禁止処分を招いた未成年選手の国際移籍に関する違反はその好例だ。

 13−14シーズンにヘラルド・マルティーノを監督に招へいした際、チームの刷新に踏み切れなかったこともそうだ。クラブの内部にはロッカールームの重鎮たちを放出できる者などいない。だからこそ、マルティーノのような“外様”の人間こそ、その役割を任せるのにふさわしかったのだが……。

 バルセロナはチームをてこ入れするタイミングが遅すぎただけでなく、いざ変化をもたらす際には、前線の南米トリオに重心を移すことを選んだ。それは中盤でのボールポゼッションを通してゲームをコントロールするクラブ伝統のプレースタイルを放棄し、より効率的に相手ゴールを陥れるチームへと変わることを意味した。

 並行してシャビがクラブを去り、イニエスタもキャリアの終わりが近づいている中、いったい誰が今後数シーズンにわたってメッシのパートナーを務め、攻撃の組み立て役を担うのか。現時点では近い将来にチームがあるべき姿が全く見えなくなっている。

 また、クラブは30歳を迎えたメッシの扱い方も問われている。相手ゴールから離れ、より低い位置から攻撃を組み立てる、チャンスメーカーとしての色合いを強めていくのか。それとも、よりゴール前にプレーエリアを絞り、フィニッシャーとしての仕事に専念するようになるのか。可能性としては前者の方が高そうだが、後者の道を選ぶことも不可能ではないだろう。

レアル・マドリーが覇権を奪った3つの要因

レアル:マドリーが覇権を奪った要因の1つがジネディーヌ・ジダンの監督就任だろう 【写真:ロイター/アフロ】

 このような状況にあるバルセロナを尻目に、レアル・マドリーは3つの要因をもって困難な時期を乗り越えることに成功した。1つは“銀河系補強”を貫くこと、2つ目は徐々にチームの若返りを図ること、3つ目はジネディーヌ・ジダンをリーダーに据えることだ。

 カルロ・アンチェロッティの指揮下でアシスタントコーチを務めていたころから、すでにクラブは将来的にジダンにトップチームの監督を任せる意向を固めていた。ラファ・ベニテス前監督の失敗によって生じた16年初頭の指揮官就任は、予定より数カ月、もしかしたら1、2年早かったかもしれない。いずれにせよフロレンティーノ・ペレス会長の頭には、遅かれ早かれジダンがクラブの顔となる青写真が描かれていたのである。

 レアル・マドリーのようなスター集団をコントロールするために必要なのは、ドラスティックな改革やメディアを使った過剰な演出などではない。そのことを理解していたジダンは、自身は黒子役に徹しながら、巧みに選手たちの心理を読み取りつつ、至ってシンプルに振る舞うことで見事にチームをまとめ上げた。

 常人には真似できない類い稀(まれ)なボールコントロール技術とは裏腹に、ジダンは至ってまともな常識感覚にユーモアと皮肉を交えつつ、レアル・マドリーをいかなる試合でもゴールをこじ開ける攻撃力、困難な状況下でも動じない骨太さを兼ね備えた、難攻不落のチームに作り上げた。

 バルセロナは対照的に、現時点で重要な存在となっていたかもしれないカンテラーノを何人も放出してきた。右サイドバックが不足しているにもかかわらず、マルティン・モントーヤには全くチャンスを与えぬまま戦力外とした。シャビの後継者となるはずだったチアゴ・アルカンタラもバイエルン・ミュンヘンに手放してしまった。

 果たして、エルネスト・バルベルデが新監督に就任した今季、バルセロナは栄光の時代の強さを取り戻し、われわれの想像を上回るレベルアップを果たしたレアル・マドリーから、覇権を奪い返すことができるだろうか。

 今のところ、見通しがいいとは言い難い状態にある。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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