世界水泳で泳ぐ距離は1日12キロ!? 池江らマルチスイマー、驚異の体力を分析
池江璃花子は最大8種目で出場予定。複数レースをこなすために必要な運動量とは? 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
短距離を得意とし、自らを“スプリンター”と称する池江。そのすごさは多種目を速く泳げるだけでなく、1日に複数レースをこなすだけのスタミナも併せ持っている点にある。具体的にどういうことか。スポーツナビでは、2012年ロンドン五輪で競泳日本代表をサポートした管理栄養士の柴崎真木さんに分析を依頼。池江をモデルに世界水泳をシミュレーションし、マルチスイマーに求められる運動量などを試算してもらった。
レースで泳ぐのはわずかだが……
【スポーツナビ】
「一般の方は、(レース当日に選手が)こんなに泳いでいるという感覚はないと思います。水泳の1レース自体の消費カロリーは少ないですが、アップやダウンで準備が多いというところで、消費カロリーが高いんです」
これが池江のようなマルチスイマーとなれば、レース数が増える分、運動量は倍倍ゲームで増えていく。今回の世界水泳でシミュレーションすると、競泳初日の7月23日に100メートルバタフライと4×100メートルフリーリレーの2種目にエントリーしている。それぞれ午前の部に予選、午後の部に決勝が行われるため、決勝に勝ち上がれば午前2本、午後2本で最大4レース泳ぐことになる。
先ほど同様、1日に4レース出場する場合の練習メニューをシミュレーションしたものが、次の図になる。
【スポーツナビ】
柴崎さんの試算によれば、この時の運動量は、池江と同等の体型の女子選手の場合、約1900キロカロリー消費するのと同等となる。徒歩(時速4キロ)に換算すると10時間分にも相当する。ただでさえ体力が必要な競泳だが、マルチスイマーとなると、なおさら並外れたスタミナが必要であることが分かるだろう。逆に言えばこれほどの体力がなければ、速く泳ぐことができないということだ。
もちろん、レースとなればプレッシャーも相まって疲労度は増す。柴崎さんいわく、心身の消耗でも体力は削られるのだという。
「(世界水泳のように)7、8日間と続く大会になると、体重を落としてしまう選手も多くいます。中には2キロ落ちる人もいますね。複数種目に出場する選手は、前半の種目で何本も泳いで消耗して体重が減り、最後のリレーで力が出せないという事例もあります」
エネルギー補給がカギになる
競泳選手の補食の一例。エネルギーが不足しないよう、おにぎりなどで糖質を補給する 【写真提供:柴崎真木】
レース当日は朝早くから競技が始まることもあり、食事の時間を十分確保できず、エネルギーが不足しがちになる。「合間にゼリーを取るとか、レースまで1時間くらいあるようだったらおにぎりを食べるなど、こまめに糖質を補給し、エネルギーが不足しないようにしないといけません。緊張して食べられない選手には、合間にどういうものを食べればいいのかを提案しています」と、柴崎さん。レース数が増えるマルチスイマーほど、スタミナ切れは命取り。エネルギー補給も勝負のカギとなる。
複数レースを耐え抜くには、スピードとスタミナの両方を鍛えなければならない。池江は、それを高いレベルで両立させている選手と言えるだろう。
(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
プロフィール
【写真提供:柴崎真木】
管理栄養士として、競泳を中心にトライアスロン、スピードスケート、柔道などさまざまな競技でアスリートを栄養面でサポート。2012年ロンドン五輪では、日本スポーツ振興センターのマルチサポート事業において競泳日本代表チームを担当。現在は愛知水泳連盟医科学委員も務めている。
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