世界水泳で泳ぐ距離は1日12キロ!? 池江らマルチスイマー、驚異の体力を分析

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池江璃花子は最大8種目で出場予定。複数レースをこなすために必要な運動量とは? 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 水泳の世界選手権(以下、世界水泳)の競泳が23日、ハンガリーのブダペストで開幕する。日本勢で注目選手の一人は、高校2年生の池江璃花子(ルネサンス亀戸)だ。4月の日本選手権では女子では史上初の5冠を果たし、世界水泳では50メートル、100メートルの自由形とバタフライの個人4種目とリレー2種目にエントリー。さらに混合のリレー2種目のメンバーになった場合は、最大8種目の出場となる。

 短距離を得意とし、自らを“スプリンター”と称する池江。そのすごさは多種目を速く泳げるだけでなく、1日に複数レースをこなすだけのスタミナも併せ持っている点にある。具体的にどういうことか。スポーツナビでは、2012年ロンドン五輪で競泳日本代表をサポートした管理栄養士の柴崎真木さんに分析を依頼。池江をモデルに世界水泳をシミュレーションし、マルチスイマーに求められる運動量などを試算してもらった。

レースで泳ぐのはわずかだが……

 そもそも、競泳選手はレース当日にどれくらい泳ぐのか。次の図は、日本代表クラスの女子選手が、100メートルバタフライの1レースを泳ぐと仮定した場合の、一般的な練習メニューである(コンディション等によって個人差がある)。

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 レース自体は100メートル、1分弱しかない。しかし、柴崎さんによれば、種目や距離、予選・決勝などのレース状況や個人差はあるものの、ウォームアップで2000メートル(50分)程度、レース後のクールダウンで1500メートル(30分)程度泳ぐ必要があるという。つまり、わずか100メートルの勝負のために、1日で合計約3600メートル(3.6キロ)、実にレース距離の36倍も泳ぐ必要がある。この時の運動量を消費カロリーに換算すると約600キロカロリー。20代女性の約1食分のカロリーを1時間半かからずに消費する計算だ。柴崎さんはこう説明する。

「一般の方は、(レース当日に選手が)こんなに泳いでいるという感覚はないと思います。水泳の1レース自体の消費カロリーは少ないですが、アップやダウンで準備が多いというところで、消費カロリーが高いんです」

 これが池江のようなマルチスイマーとなれば、レース数が増える分、運動量は倍倍ゲームで増えていく。今回の世界水泳でシミュレーションすると、競泳初日の7月23日に100メートルバタフライと4×100メートルフリーリレーの2種目にエントリーしている。それぞれ午前の部に予選、午後の部に決勝が行われるため、決勝に勝ち上がれば午前2本、午後2本で最大4レース泳ぐことになる。

 先ほど同様、1日に4レース出場する場合の練習メニューをシミュレーションしたものが、次の図になる。

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 レース間は前のレースのダウンと次のレースのアップを兼ねるため若干短くなるものの、合計およそ1万2400メートル、実に12.4キロを泳ぐ計算だ。

 柴崎さんの試算によれば、この時の運動量は、池江と同等の体型の女子選手の場合、約1900キロカロリー消費するのと同等となる。徒歩(時速4キロ)に換算すると10時間分にも相当する。ただでさえ体力が必要な競泳だが、マルチスイマーとなると、なおさら並外れたスタミナが必要であることが分かるだろう。逆に言えばこれほどの体力がなければ、速く泳ぐことができないということだ。

 もちろん、レースとなればプレッシャーも相まって疲労度は増す。柴崎さんいわく、心身の消耗でも体力は削られるのだという。

「(世界水泳のように)7、8日間と続く大会になると、体重を落としてしまう選手も多くいます。中には2キロ落ちる人もいますね。複数種目に出場する選手は、前半の種目で何本も泳いで消耗して体重が減り、最後のリレーで力が出せないという事例もあります」

エネルギー補給がカギになる

競泳選手の補食の一例。エネルギーが不足しないよう、おにぎりなどで糖質を補給する 【写真提供:柴崎真木】

 並々ならぬ体力をつけるために大事なのが、食事だ。平均的な女子日本代表クラスの選手の1日の消費カロリーは、2700〜3300キロカロリー。20代女性の摂取エネルギー必要量は約1950カロリーなので、一般女性のさらに2食分近くを余計に摂取しなければならない。

 レース当日は朝早くから競技が始まることもあり、食事の時間を十分確保できず、エネルギーが不足しがちになる。「合間にゼリーを取るとか、レースまで1時間くらいあるようだったらおにぎりを食べるなど、こまめに糖質を補給し、エネルギーが不足しないようにしないといけません。緊張して食べられない選手には、合間にどういうものを食べればいいのかを提案しています」と、柴崎さん。レース数が増えるマルチスイマーほど、スタミナ切れは命取り。エネルギー補給も勝負のカギとなる。

 複数レースを耐え抜くには、スピードとスタミナの両方を鍛えなければならない。池江は、それを高いレベルで両立させている選手と言えるだろう。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

プロフィール

【写真提供:柴崎真木】

柴崎 真木(しばさき まき)
管理栄養士として、競泳を中心にトライアスロン、スピードスケート、柔道などさまざまな競技でアスリートを栄養面でサポート。2012年ロンドン五輪では、日本スポーツ振興センターのマルチサポート事業において競泳日本代表チームを担当。現在は愛知水泳連盟医科学委員も務めている。
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