柏が目指すアカデミーと個性の融合 未知数ではある、だが伸びしろは期待大
“スタイル不変”を成立させるアカデミーの存在
アカデミー出身の手塚(17)の起用は、不振から脱却する要因の1つとなった 【(C)J.LEAGUE】
アカデミーの選手は、6年から長い者で9年はこのスタイルのサッカーで育つため、「同じ特徴を持った選手ばかりが育つのではないか」と、懐疑的な見方もされるだろう。しかし、昨季まで柏の中盤でパスの供給源となっていた茨田陽生と秋野央樹がそろって移籍し、今シーズンの開幕当初に“パサー不在”によりマイボールになってもスムーズに攻撃へつなげられないジレンマが生じた際、それを解消させたのが茨田と秋野の系譜を受け継ぐ手塚だった。
手塚は中盤のパスワークを潤滑にさせ、彼がスタメンに定着した第5節のサンフレッチェ広島戦以降、柏は13試合で10勝1分け2敗とV字回復を果たした。結果として手塚の起用は、序盤4試合の1勝3敗という不振から脱却する要因の1つとなったのだ。
また、ボランチに加え、足元の技術に長けたセンターバック(CB)の存在もビルドアップの起点を作る生命線となる。最終ラインの全ポジションをこなせるルーキーの古賀太陽、U−18所属の高校3年生で2種登録選手のCB中川創も、現在スタメンを張る中谷と中山の系統を受け継ぐプレースタイルを持つ選手だ。同系の選手を輩出し続けることは、むしろ柏の“スタイル不変”を成立させる重要なポイントでもある。
指揮官の想像以上に若いチームが急激に成長
6月末、下平監督がシーズン当初の目標だった「勝ち点60以上、ACL出場権獲得」から「優勝」へと上方修正 【(C)J.LEAGUE】
それは前線の個の力だ。柏のメンバーは、GK、DF、MFの選手たちの過半数がアカデミー出身選手なのに対し、唯一FWだけはその傾向が大きく異なる。クリスティアーノ、大津祐樹、ディエゴ・オリヴェイラ、伊東、ハモン・ロペス、大島康樹、ドゥドゥ(負傷で現在は登録抹消)…。アカデミー出身の大島を除けば、前線のアタッカーは外国籍選手か、大津、伊東と外部出身。つまり、大まかに分ければ、中盤から後ろのビルドアップはアカデミー出身選手が担い、攻撃は外部出身選手というチーム構成が出来上がる。
その点について下平監督はこう述べている。
「バルセロナも前線はメッシ、スアレス、ネイマールで成り立ち、中盤から後ろがアカデミー出身で成り立っているが、他の選手が守備だけをして攻撃を3人に任せていたら、いくらバルセロナでもあれだけの成績は収められなかったでしょう。Jリーグもそれと同じで、日本人で守備をして外国籍選手に攻撃を任せていれば、ある程度の成績を収められるかもしれないが、それではACL(AFCチャンピオンズリーグ)で優勝はできない。ACLで優勝するためにも、アカデミーのサッカーと選手の個性を融合させたスタイルを身につけなければいけない」
就任当初からぶれずに積み上げてきたことで、チームは徐々に成熟度を増し、上位とも互角に渡り合える力を身につけてきた。その結果が、前半戦の躍進へとつながったわけだ。スタメンの平均年齢が24歳とリーグ随一の低さを誇るため、チームの成長の早さや伸びしろという部分は、今の柏の大きな強みである。
6月末、下平監督がシーズン当初の目標だった「勝ち点60以上、ACL出場権獲得」から「優勝」へと上方修正したことは、指揮官の想像以上に若いチームが急激な成長曲線を描いている証しだ。鹿島戦では、前年王者の底力を見せつけられる結果となった。しかしビルドアップ能力に長けた若いアカデミー出身選手がさらに成長し、キム・ボギョン加入による競争意識の向上に伴って前線の精度が増せば、柏は後半戦でもチーム力を大きく伸ばす可能性がある。
未知数ではある。だが、十分に期待の持てるチームであることは確かだ。