楽天・則本は会社でもスーパーエース!? 記録より大切な、その立ち居振る舞い

松山ようこ

8試合連続2桁奪三振の日本記録を樹立した楽天のエース・則本 【写真は共同】

 記録が途絶えた瞬間、神宮球場の記者室はにわかに騒然とした――。

「“成らず”だ! “成らず”!」。“成らず”とは、記録更新が成らなかったことを意味する。2桁奪三振の連続試合記録を、プロ野球記録となる「8」まで更新していた東北楽天のエース・則本昂大。6月15日の東京ヤクルト戦で、「世界記録」となる「9」に至らなかった瞬間、記者らは口々に叫んで、電話を取り、パソコンのキーを激しくたたき始めた。

 1991年に野茂英雄(当時近鉄)が達成した「6」試合連続の記録を破り、99年にペドロ・マルティネスが打ち立て、クリス・セール(レッドソックス)が2度マークした「8」試合連続のMLB記録と並んだ。「9」試合連続は、「世界記録」となるはずだった。

 毎日ニュースをスピーディに配信する番記者の人々は、さまざまな「結果」を想定して、試合中に複数の草稿を準備している。この日の目玉は則本の記録更新で、まずは「則本が記録更新した時」を想定していた。イーグルスにとっても、試合に勝った上で記録更新することが最高のシナリオだが、この日は負けたあげく記録も途絶えた。

 だが最後の最後まで、記録更新への期待は記者室にもあった。今季の則本はそう信じさせるだけの圧巻の奪三振ショーをみせているからだろう。持ち味のストレートは球威もスピードも増し、最速157キロをマーク。ここぞの場面でギアを上げて投げ込む。スライダーやフォークなどの変化球も、昨季より制球力が増した。

「負けても記録更新あるかも」「連続記録の1試合目がそうだった」と確認する声。まだいける、いってくれ、そんなムードがそこかしこに漂っていた。

 4回まで5奪三振の無失点。危なげなく記録更新するかと思った5回、キャッチャーの嶋基宏が則本のバウンドしたフォークを喉元に受けて負傷退場した。まるで強烈なフックかアッパーをもらった格闘家のように、下半身が言うことをきかない。嶋は何度も膝から崩れ落ち、両肩を抱えられて退いた。

 その後も則本は平静を保ったように次打者を三振で仕留めるも、6回と7回には暴投などミスも重なって5失点。則本のテンポも試合の流れも悪くなったところで、梨田昌孝監督が投手交代を告げた。則本は7回7安打6失点(自責点4)、8奪三振。チームは2対6で敗れた。

「記録はいつか途切れるもの。それよりもチームを勝たせられなかったことが悔しい」。則本は試合後、申し訳ない気持ちと歯がゆさもあらわに、肩を落として神宮球場を後にした。

強くなるため、どこまでも柔軟でひたむき

 この試合前、与田剛投手コーチに則本のすごいところはどこか尋ねた。

「マウンドを降りるまで諦めない。そういう気持ちが今年は特に強いのかなと思いますね。リリーフも休ませたいとか、自分がマウンドに上がった以上は、やっぱり一人でも多くバッターを打ち取る、それがより強くなってきている気がします」

 試合後の「勝たせられなかった」という言葉が出てくるわけである。それでいて人一倍、研究熱心。身長178センチとプロ野球選手としては決して大きくない体で、いかに結果を出すか。球団関係者などに話を聞いても、「則本は向上心の塊」「新しいことへの好奇心もすごい」と口をそろえる。

 その最たるものが、左投げでのピッチング練習だろう。レンジャーズのダルビッシュ有が行っている影響もあるということだが、今年の春季キャンプでは、昨年よりもさらにスケールアップを遂げていた。時速120〜130キロのチェンジアップを投げ込み、周囲の度肝を抜いたのだ。この練習を行うのは左右のバランスに良いためだという。こうした影響もあって、今季のイーグルスのキャンプでは投手陣が左手でバドミントンをする練習も行っていた。

 いかに体を強くして、それを維持するのか。それを誰よりも考えている。意識の高さはエースのそれである。則本が始めた新メニューは、他にも複数ある。投手陣がついて行きたいとマネすることもあれば、則本が「それ何?」と聞き始め、取り入れることもある。強くなるためには、どこまでも柔軟でひたむき。若きクローザー・松井裕樹もトレーニング関連の造詣が深いが、そんな則本を兄のように慕い、互いに切磋琢磨しあっているようだ。

「どんなに試合で打たれたり、つらい敗戦があったりしても、見事に切り替える」とたたえるのは、ブルペン捕手の塚田秀典氏。その言葉を裏付けるかのように、かの試合の翌日には弾ける笑顔でチームメイトと練習に励んでいる姿を捉えた写真がSNS上にアップされていた。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。翻訳者・ライター。スポーツやエンターテインメントの分野でWebコンテンツや字幕制作をはじめ、関連ニュース、企業資料などを翻訳。2012年からライターとしても活動をはじめ、J SPORTSで東北楽天ゴールデンイーグルスやMLBを担当。その他、『プロ野球ai』『Slugger』『ダ・ヴィンチニュース』『ホウドウキョク』などで企画・寄稿。2018年よりアイスクロス・ダウンヒルの世界大会Red Bull Crashed Iceの全レースを取材。小学館PR月刊誌『本の窓』にて、新しい挑戦を続けるアスリートの独占インタビュー記事「アスリートの新しいカタチ」を連載中。

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