セッター宮下遥、東京五輪への決意 若き司令塔の飽くなき挑戦は続く

月刊バレーボール

リオ五輪であらためて気付かされた未熟さ、そして強み

リオ五輪では世界との力の差を嫌というほど感じた 【写真は共同】

 全日本女子はチームとして細かい戦術をなかなか詰めることができず、リオ五輪を迎えた。最終戦となった準々決勝の米国戦では、「自分の感じるままにやればいいんだ」と吹っ切れた部分もあったが、やはり、世界との力の差を嫌というほど感じた。最終的に5位でフィニッシュしたリオ五輪を振り返り、宮下はこう語る。

「五輪の切符を取れたことにホッとしすぎて、チームの中でもうまくいかない部分がありましたし、時間が少ない中で本当の覚悟を持って臨めたかと聞かれれば、?が付くかなと。そこは、同じことを繰り返さないようにしたいですね。

 本当に覚悟ができた時というのは怖いし、不安なことも頭をよぎります。けれど、口だけではなく、心から『もうやるしかない』と思えたら、自然と体も動くし頭も回る。高い集中力も含めて、そこは私の強みなんだなとあらためて気付くことができて、それは自分がバレーをしている限り、大切にしていかなければと思いました」

17年シーズン、そして五輪への思い

今年5月。練習中に仲間と顔を見合わせ、ほほえむ宮下 【月刊バレーボール】

 自分のいい部分や未熟な部分にあらためて気付いた昨シーズン。リオ五輪を経験したとはいえ、Vリーグ期間中もトスの感覚に違和感を抱いた時期もあり、“一回り大きくなれた”とはまったく思っていない。

 未熟な部分が出てしまう時には、シーガルズのチームメートや河本昭義監督が、自分を正しい方向に戻そうと一生懸命支えてくれた。その中で、「“その試合が、自分の調子のいい時に比べて良かったか悪かったか”は自分にしか分からない。遥が悲観的な人間ではないことを僕は分かっているけれど、自分が思っていることをファンに分かるように伝えなければ理解してもらえない。ファンは期待してくれているんだから」と、指揮官は宮下に話したという。

「自分のことを思ってくれる仲間の気持ちを大事にしながら、また今年も頑張りたいと思っています。今シーズンはチーム(シーガルズ)がV・チャレンジリーグに降格したこともあり、正直チームのことで頭がいっぱいな部分もありますが、活動する場所がチームであれ全日本の場であれ、今年1年、私がこういうふうにしたいと思うことは、『自分の完成に近づきたい』ということ。

 たとえば全日本であれば、メンバーに選ばれるため、大会にメーンで出るために頑張るとかではなく、自分自身の完成のために、場所はどこであれ、やれることをきちんとやる。具体的にどう完成するのかということは、イメージはありますが、言葉にできないというか……。でも、7年前に言っていたように“自分に厳しく”、少しでも自分自身の完成に近づける1年にしたいと思います」(宮下)

 13年から全日本で主力として活動し始めて5年目。とはいえ、宮下はまだ22歳。

「昨年あたりから、先輩をイジるということをだいぶ覚えさせていただきました(笑)。礼儀正しくいっても、その人の心のトビラは開かないと思うので。全日本も若い選手が増えましたが、集合してあらためて『5年目だけれど、年齢的に見たらまだ雑用係じゃん、私』と思ったり(笑)」とおどけてみせた宮下からは、その笑顔の裏にある、何かひとつ大きな壁を乗り越えた力強さやプライドのようなものを感じる。

 続けて、宮下は真剣な表情で語った。

「久美さん(中田監督)の“こういうふうにやっていきたい”という思いを聞いて、『本当にこの代表に懸けている人だ』と、思いがすごく伝わりました。そういう熱い思いを持った方と一緒に活動ができるのはすごくプラスになると思いますし、楽しみです。

 全日本での最終的な目標としては、“東京五輪で金メダル”という目標がありますが、あまりそこを最終ポイントにはせず、まずは人生の中で五輪にチャレンジできること自体にすごく価値があると思っています。そこまでの過程は、今までに経験したことがないくらい苦しいかもしれないけれど、すごく充実した濃いものになると思うので、今は、この“挑戦できる時間”を大事にしたいです」

 20年、東京五輪でメダルを獲得すべく歩み始めた全日本女子。かつて名セッターとして全日本をけん引した中田久美監督の下、宮下は心技体ともにさらに磨きをかけるだろう。壁を乗り越えたからこそ、また見えてくる新たな高い壁へ向けて、若き司令塔の飽くなき挑戦は続く。

(永見彩華/月刊バレーボール)

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著者プロフィール

1947年創刊。バレーボールの専門誌として、その黎明期から今日まで、日本のバレーボールを取り上げ、その報道内容は、全日本、Vリーグはもちろん、小・中・高・大学生、ママさんまで、多岐に渡る。

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