恐れを知らぬ現代の開拓者ハーパー 素質とビッグマウスでMLBをカラフルに

杉浦大介

リーグ全体のことを考える一面も

打撃でメジャーリーグを背負うだけでなく、言動でも多くの注目を浴びるハーパー 【写真:Getty Images】

 ここで付け加えておきたいのは、ハーパーは単なる無軌道な暴れん坊ではなく、リーグ全体のことを考える度量も持っている選手に思えることだ。アンチの多さも、考えようによってはプロアスリートの財産。昨季開幕前には、ハーパーは『ESPNマガジン』の記事内でこんな風に述べていたことがあった。

「ベースボールは退屈なスポーツになっている。なぜなら自分を表現することが許されないからだ。ゲーム自体が退屈なわけではない。ベースボール以外の選手は試合中に感情をむき出しにしても咎められない。それがスポーツをよりドラマチックにしているんだ」

 米国内では実際に若年層、黒人層のベースボール離れがささやかれて久しい。理由の1つはゲーム時間の長さとアクションの少なさで、近年は試合時間短縮の試みが始まっている。それと同時に、ハーパーの言葉通り、派手なパフォーマンスが許容されるNBA、NFLなどと比べ、感情が排されたゲームに物足りなさを感じる若いファンも多いはずである。

FAになれば超巨大契約は確実

 乱闘、暴言などを推奨する気はもちろん毛頭なく、不必要な暴力は論外。それでもハーパーの自由奔放なプレー態度やコメントに、新鮮さを感じる若者は少なくないのではないか。一部のオールドファンから批判、酷評されながら、それでも思い切った提言をするところにこの選手の責任感は感じられる。

「(ハービーのようなスターが)故障してしまうのは残念なこと。良い状態で早く戻ってきてほしい。最高級の投手との対戦は楽しいものだからね」

 昨年7月、それまで26打数1安打と抑えられていたメッツのマット・ハービーの故障離脱が発表された際、ハーパーは目に見えて消沈していた。ハービーのような豪腕とのライバル関係は、リーグ全体の呼び物になる。そのことを理解した上でのスーパースターのコメントは、一部のメッツファンをも感嘆させた。

 このハーパーは18年終了後のオフにはFAになり、その際には史上空前の争奪戦が勃発することは間違いない。早くもヤンキース、フィリーズなどの大都市チームは総額4〜5億ドル(約440億〜550億円)といった超巨大契約をオファーすることが濃厚と伝えられている。そこでどのチームに行くことになろうと、確かなのは、“Cocky(生意気)”なハーパーが自分らしさを失うことはないだろうということだ。

 ビジネスライクな姿勢が依然として賞賛されるメジャーの体質は、ハーパーでも変えることはできないかもしれない。たとえそうだとしても、そのスリリングなプレーと言動は今後も多くのファンを楽しませていくに違いない。

 現役最大の風雲児は、恐れを知らぬ現代の開拓者。ハーパーが元気に活躍した方が、メジャーリーグはよりカラフルでエキサイティングになる。ライバルチームのファンであっても、その事実は誰も否定できないはずである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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