アジア制覇と引き換えの徹底マーク 平野美宇は包囲網を突破できるか?

月刊『卓球王国』

戦績以上に大きい中国武者修行の成果

超級リーグで現世界ランク1位の丁寧と対戦する平野 【写真は共同】

 メンタル面では昨年の中国・超級リーグ参戦が大きいだろう。代表選手に限らず、ハイレベルな選手がそろう超級リーグで、今回の世界選手権中国女子代表5選手全員と対戦することができた。

 通算10試合に出場し、3勝7敗と負け越しに終わったが、ワールドツアーなどで1、2試合中国選手と試合をすることはあっても、これだけ連続して中国選手を相手にできる機会は少なく、それだけでも参戦した意味がある。また、試合以外でもこんな収穫があったと平野は超級リーグからの帰国後に話している。

「中国に行って一番違うのは、中国そのものを身近に感じられること。中国代表だというだけで、『あっ、中国選手だ』というように見てしまうんですが、一緒に生活していると『そんなに違わないんだな、普通なんだな』と思いました。次からは萎縮することなく戦えると思います」

 越えるべきライバルと自らの距離を知る一方、そこまで特別な存在ではないことも知った。1カ月と1週間の中国生活で得たものは3勝7敗という戦績以上に大きいはずだ。

 またアジア選手権で使用され、今回の世界選手権でも使用されるニッタク(日本卓球株式会社)製のボールも平野にとっては好材料。

 他のボールに比べ、材質が硬く回転がかけにくいとされるこのボールだが、スピードで押していく平野にとってはそこまでマイナスにはならず、回転量の減った相手のボールを利用しながらラリーに持ち込み、猛攻を仕掛けていける。アジア選手権でも、中国選手の武器である回転量での「力攻め」をかわし、平野が逆襲を浴びせる場面が目立った。決定力を高めたモデルチェンジが、ここでも好影響をもたらしている。

中国勢以外にも要注意

世界卓球の組み合わせ抽選会に出席した平野(中央)ら 【写真は共同】

 しかし、センセーショナルな活躍と引き換えに、世界選手権で平野は中国はじめ世界からの徹底マークを受けることは必至。地元開催のアジア選手権で苦杯をなめた中国は、平野対策に熱を入れており、アジア選手権の再現は容易ではない。

 警戒を強める中国に対して「上回れば良い」と語る平野だが、一度負けた相手には徹底的な対策でリベンジするのが中国の強さ。これまでも敗戦を糧に、タイトルを死守してきた。

 また、平野にとっては今回が2度目の世界選手権。ベスト8シードに入っている平野は組み合わせ抽選の結果、中国選手とは準決勝以降での対戦となるが、それ以前のカード、特にカットマンや異質攻撃型との対戦となればしっかり対策を練って万全を期して臨みたい。

 さらに、回転量が落ちてラリー戦が増えるニッタク製ボールでは、パワーヒッターにも要注意。サービスやレシーブ、速さではアジア勢に劣るヨーロッパ勢が、持ち前のパワーを武器に暴れる可能性もある。直前合宿では中国選手の対策練習を重点的に行っていると話したが、油断は大敵だ。

 平野自身、挑む側として臨んできたこれまでとは一転して、挑まれる立場で臨む大会となるが、初戦がひとつのポイントとなりそうだ。昨年12月の世界ジュニア選手権では向かってくる格下選手相手に苦しむ試合展開も見られたが、その経験を生かしてどのように大会に入っていけるか。初戦から快速両ハンドの猛攻でロケットスタートを決めたい。

全日本選手権で福原愛(左)の最年少記録を更新し、祝福を受ける平野 【写真は共同】

 小誌・卓球王国が初めて平野にインタビューをしたのは彼女が5歳の時。その頃、メディアから“(福原)愛ちゃん2世”と呼ばれることに対して、「美宇は美宇」と答えていた。当時から目標は変わらずに五輪で金メダル。その目標は着実に現実に近づきつつある。

 4年後の東京五輪に向けて、新たなスタートとなる今回の世界選手権。ブレることなく、誰も通ったことのない道を歩き続ける17歳は、持ち前の「突破力」で「平野美宇」の名を世界の卓球史に刻むことができるか。

(文:浅野敬純/卓球王国)

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