日本ボクシング界をけん引する王者たち V12山中から戴冠1カ月久保までを全紹介

原功

実績、実力で秀でる井岡、井上、山中

米国リング誌の「パウンドフォーパウンド」ランキングで日本人最高位につける山中慎介 【写真は共同】

 9人のうち「日本ボクシング界のエースは?」と問われたら、井岡一翔、井上尚弥、山中慎介の3人の名前を挙げる人が多いのではないだろうか。この3王者はTBS(井岡)、フジテレビ(井上)、日本テレビ(山中)が放送するボクシング番組の象徴的存在でもある。いずれ劣らぬ実力者だけに単なる防衛ではなく海外進出、他団体王者との統一戦などが期待されている。

 八重樫よりもひと足早く3階級制覇を果たしている井岡一翔(28=井岡)は、現在はWBAフライ級王座に君臨している。国内のトップアマから09年にプロへ転じ、当時の日本最速記録となる7戦目でWBCミニマム級王座を獲得(11年)。12年にはWBAライトフライ級王座についた。フライ級転向後、一度はIBF王座に挑んで惜敗したが、15年4月にファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)に12回判定勝ち、叔父(井岡弘樹氏)が達成できなかった3階級制覇を成し遂げた。この王座はレベコを11回TKOで返り討ちにするなど4度防衛中だ。世界戦での14勝は具志堅用高氏と並ぶ日本タイ記録でもある。左ジャブで切り込み、右ストレートから左ボディブローと繋げるコンビネーションが巧みで、駆け引きやスタミナ面でも長けている。4階級制覇にも意欲をみせている。23戦22勝(13KO)1敗。

“モンスター”の異名を持ち、世界的な注目度も高いのがWBOスーパーフライ級王者の井上尚弥だ。五輪出場は逃したが、アマチュア時代には数々の国際大会も経験し、12年に異例の8回戦でプロデビュー(4回KO勝ち)。4戦目で田口良一に勝って日本ライトフライ級王座につき、5戦目では東洋太平洋王座も手に入れた。デビューから1年半後の14年4月、アドリアン・エルナンデス(メキシコ)を6回TKOで屠ってWBCライトフライ級王座を獲得した。6戦目での戴冠は田中恒成に破られるまでの国内最速記録だった。8カ月後、一気に2階級上げてWBOスーパー・フライ級王座に挑戦。30度の世界戦を経験しているオマール・ナルバエス(アルゼンチン)を4度倒して2回KO勝ち、衝撃的な王座奪取を果たした。スピード、パワー、テクニックを兼備した万能型で、さらなる飛躍が期待されている。まずは21日のV5戦に要注目だ。12戦全勝(10KO)。

 井岡、井上らとともに日本ボクシング界の大黒柱といえるのが“ゴッド・レフト(神の左)”、WBCバンタム級王者の山中慎介(34=帝拳)だ。11年の戴冠から5年半で12度の防衛を果たしているサウスポーは、米国の老舗専門誌「リング」のパウンドフォーパウンド(体重同一時と仮定した強さの指標)で井上のひとつ上、9位にランクされているように、世界的な評価も高い。12人の挑戦者の質も高く、のべ7人が元世界王者である。特にV9戦で苦戦した元WBA王者のアンセルモ・モレノ(パナマ)とはV11戦で再戦し、4度のダウンを奪って決着をつけている。次の防衛戦で勝つか引き分けるかすると具志堅用高氏の持つ世界王座防衛13度の日本記録に並ぶ。サウスポーのボクサーファイター型で、戴冠試合を含めた13度の世界戦では計27度のダウンを奪っている。そのほとんどが「神の左」だ。29戦27勝(19KO)2分。

Sバンタム級では久保と小國が世界王者に

4月に世界王者になったばかりの久保隼(右)。昨年引退した長谷川穂積の背中を追い、世界の王者まで上り詰めた 【写真は共同】

 4月にWBAスーパーバンタム級王者になった久保隼(27=真正)は、9人のなかでは最もホヤホヤの世界王者だ。4月9日、キャリアで9年、試合数で3倍勝るネオマール・セルメニョ(ベネズエラ)に大阪で挑戦し、7回に喫したダウンを挽回して10回終了TKO勝ちを収めて戴冠を果たした。アマチュアを経て14年にプロに転向し、ジムの先輩でもある長谷川穂積(3階級制覇王者)の背中を見て成長を遂げてきた。15年12月に東洋太平洋王座を獲得し、2度防衛後に世界一になった。この階級では176センチという長身で、左構えから繰り出す右ジャブで相手をコントロールし、威力のある左ストレートに繋げるスタイルを持つ。12戦全勝(9KO)。課題も少なくない成長途上の王者だが、それだけに多くの伸びしろを残してもいる。

 久保と同じスーパーバンタム級のIBF王者、小國以載(28=角海老宝石)は昨年大晦日、23戦22勝(22KO)1無効試合の強打者、ジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)を破って王座についた。巧みな左ボディブローで2度のダウンを奪ったすえの判定勝ちで、1対9のオッズをもひっくり返す番狂わせだった。アマチュアを経て09年にプロデビューし、7戦目で東洋太平洋王座を獲得。4度目の防衛戦で和氣慎吾(山上)に敗れたのを機に角海老宝石ジムに移籍した。14年12月に日本王座を獲得し、2度防衛後に返上して世界挑戦に備えた。テンポよく放つ左ジャブで距離とタイミングを計りながらボクシングを組み立てる右のボクサーファイター型で、岩佐亮佑(セレス)との指名防衛戦が義務づけられている。21戦19勝(7KO)1敗1分。

 20日には東京・有明コロシアムでミドル級の村田(12戦全勝9KO)、フライ級の比嘉大吾(21=白井・具志堅 12戦全KO勝ち)、ライト・フライ級の拳四朗(9戦全勝5KO)が世界挑戦のリングに上がり、名古屋では田中が初防衛戦に臨む。翌21日には有明コロシアムで井上、八重樫のダブル防衛戦が行われる。この2日間で日本人世界王者は増えるのか、それとも――。

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著者プロフィール

1959年、埼玉県深谷市生まれ。82年にベースボール・マガジン社入社。以来、「ボクシング・マガジン」の編集に携わり、88年から11年間、同誌編集長を務める。01年にフリーランスになり、WOWOW「エキサイトマッチ」の構成などを担当。専門サイト「ボクシングモバイル」の編集長も務めている。

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