広島・鈴木誠也、成長の原点 悔しがる、考える、トライする
走攻守すべてで進化の5年目
リーグ屈指の強肩も鈴木誠也の魅力の一つ 【写真は共同】
鈴木の進化は打撃面だけではない。リーグトップクラスの強肩のため、相手チームの三塁コーチはランナーをやみくもに突入させることができない。レーザービームを披露する機会は減り、もはや「神隠し」の域である。もちろん、打球に対する一歩目のスタートも早くなり、守備範囲も広くなっている。
そして、走塁面。一塁ベースに立った鈴木はベースコーチの玉木朋孝1軍内野守備・走塁コーチに意見を求める場面が増えた。玉木コーチは証言する。
「以前より、ベース上でもベンチでも聞いてくるようになりました。要は、漠然とやっていないということです。自覚の現れだと思います」
「行けるか?」、「行けます」。スタートを切って盗塁を成功させる。そんなシーンは昨年あたりから増加しているという。
16年の盗塁数は16個だった。11回の盗塁失敗もあったが、そのアグレッシブな姿勢は今シーズンにつながっている。1軍外野守備・走塁を担当する河田雄祐コーチも力説する。「昨シーズンあれだけ仕掛けたおかげで、相手にプレッシャーをかけられていると思います。少しばかりリードも大きく取れるようになり、帰塁も速くなりました。非常に成長しているように感じます」。
スタートの判断材料となる研究、リードの大きさ、脚力そのものにも天性のものがある。
「あとは経験を積むことですが、数多く出塁することで感じられることは多いでしょう」(河田コーチ)
打撃技術の向上に伴う出塁機会の増加はランナーとしての鈴木のポテンシャルをまだまだ引き出していくだろう。
5年目のシーズン、4月中旬からは4番を務めることも多くなった。4月29日、30日の横浜DeNA戦では4番として2試合で3ホーマーを放った。いよいよ、鈴木の存在感は大きくなってきた。
身体能力、指導者のアドバイス、技術面の追求……球界屈指のアスリートが成長を止めないのにはさまざまな根拠があるだろう。しかし、入団当初からの取り組みを知る森笠コーチの言葉が最も印象に残る。
「一番大きいのは、彼は誰よりもバットを振ったということです。打てなかったら、悔しがって練習場でバットを振っていました。今もそうではないかと思いますね」
悔しがる。考える。トライする。豪快なアーチを放って自信を深めるだけが成長ではない。こうしている時間にも、背番号51は進化している。