広島・鈴木誠也、成長の原点 悔しがる、考える、トライする
4番がすっかり板についてきた鈴木。5月10日時点の成績は35試合で打率3割1分2厘、7本塁打27打点4盗塁。今季はどれほどの数字を残すだろうか 【写真=前島進】
昨年の自分は追い求めない
そのプロセスが見えるからこそ、鈴木誠也の練習からは濃密な空気が感じられる。2016年は打率3割3分5厘、29本塁打、95打点の活躍でリーグ優勝の原動力となったが、あくまで昨シーズンの自分は追い求めない。ただ着実に自らの技術を積み上げようとしている。
周囲からの期待値のハードルは高くなる。相手チームの攻めも厳しくなる。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のメンバーにも選出され、早めに仕上げる必要もあった。なかなか開幕から絶好調とはいかない。しかし、その中からも首脳陣はさらなる成長を感じていた。
東出輝裕1軍打撃コーチは語る。
「良いときの自分を追い求めるのではなく、(新たな)試行錯誤をしているように感じます。しっくりきている部分もあれば、探り過ぎているところもあります。去年、バットの使い方のレベルは格段に上がりました。バッターは、それが試合で出せるかどうかです。そういった意味では、(開幕当初のように)状態が良くない中でもヒットが出ているのが今年の成長だと思います」
課題から逃げない。結果オーライではない。だからこそ、鈴木の成長曲線は急カーブを描いてきた。高卒1年目からウエスタン・リーグで打率2割8分1厘をマークした。ルーキーとしては申し分ない成績だったが、鈴木は一つひとつの課題と真正面から向き合った。このことが、さらなる進化につながった。入団当時の鈴木を知る森笠繁2軍打撃コーチの話が興味深い。
「(鈴木には)体の強さやバットを振る力がありました。ただ、ポイントが体に近いほうだったので詰まることが多かったように思います。それでも、力があるので詰まってもヒットにはなっていました」
修正して少しポイントを前にすると、体が開きやすくなる。この相反する要素も工夫と反復練習でクリアしていった。人一倍の練習量は誰もが認めるところであった。
「気持ちが入ると力んでしまう。特に、右手の力を抜くように」と森笠らコーチ陣は助言を繰り返した。その要素も時間をかけながらクリアしていった。