“マラソン研究力”がスピードを左右する 2時間切り挑戦が日本に示したヒント

永塚和志

2時間切りにはメンタルの強さも必要

各方面の専門家が集結した挑戦は、日本マラソン界が浮上するためのヒントとなるか 【(C)NIKE】

 あらためて、マラソンでの2時間切りは可能なのか。そして人間が出せる限界のタイムはどこにあるのだろうか。米国の運動生理学者、マイケル・ジョイナー博士は1991年に1時間57分58秒という数字が限界値であると算出している。

 ウィルキンズ氏もプロジェクトの研究によれば、1時間台突入は可能であると言う。一方で、科学的、肉体的には2時間1分まで上げられるものの、そこから先は「メンタル面の強さも問われる」と付け加えた。心身が高いレベルで兼備されていなければ「壁」を越えることはままならないということだ。

 先のジョーンズ教授は「ピース」という言葉を使ったが、それがすべてそろって初めて“2時間切り”というパズルが完成する。「ブレーキング2」プロジェクトは総力を挙げ、一つ一つの領域で細部にこだわって研究した結果、設定したゴールに近づくことができた。1時間台は達成できなかったものの、公認の世界記録を大きく短縮するタイムを出したのは、多数の関係者が携わってのチーム力によってもたらされたと言ってもいいだろう。

 今回、多角的かつ科学的アプローチをふんだんに取り入れたプロジェクトが、選手個人の力量に頼るだけでなく、「チーム」として臨み一定の成果を見せた。このことは、これからのさらなるスピード化も想定されるマラソン界に、一石を投じる出来事になったのではないだろうか。あるいは、苦戦する日本マラソン界へのヒントにもなるかもしれない。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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