ダルビッシュの捨てる勇気 成功体験にとらわれない思考法

丹羽政善

3種類のカットを投げ分ける今季

開幕戦ではプレートの一塁側を踏んで投げていたが、次の試合からは三塁側を踏む形に戻した 【Getty Images】

 今季ももちろん、プレートを踏む位置以外にも試行錯誤を続け、中でもカットボール(以下カット)はかなり“使える”球種となっているよう。

 現在、コース別に3種類のカットを投げ分けていて、ダルビッシュ自身が先日、その違いを身振り手振りで教えてくれた。

「この辺(胸付近)に投げると、少し抜けるような球になる。これがファウルになったりする」

 おそらく、ジャイロ回転をしているのだろう。リリースのときの指の切り方も関係しているはずで、打者から見れば浮くようなイメージか。また、「真ん中(胸から腰付近)あたりだと、(左打者の胸元に)食い込む感じになる」とダルビッシュ。これはいわゆる、オーソドックスなタイプと考えていいのではないか。

 そして、何より今年の特徴と言えるのが、低めのカット。ダルビッシュは、膝の少し上を指しながら、「ここら辺に投げると、左ピッチャーのチェンジアップのような落ち方をする」と説明した。その軌道は、スプリットフィンガードファーストボールのようでもあり、23日の試合で4回にブランドン・モスから空振り三振を奪った球がまさにそうだった。

 ダルビッシュによれば、「左(打者)にも右にも使える」そうで、空振りを取れる球ともなっている。

 スライダーも変化の軌道を変えているが、この辺りを掘り下げようとすると、リリースポイント、回転数、回転軸などにも話が及ぶことになるので、詳細は別の機会で取り上げたいが、いずれにしても今、他の球種にもそれなりの確信がある。

何かを捨て、何かを得る

 それをダルビッシュはこう表現した。

「(去年は)良いコースにいっても、バットに当てられた。今年は良いコースにいけば、打者の反応も悪くない」

 打者の反応によって投手は、自身の状態を客観的に知ることもできるが、その点でもダルビッシュは手応えを感じている。23日の試合でも、ロイヤルズのチェスラー・カスバート、ウィット・メリフィールドらは、スライダーが自分にぶつかると思ったか、完全にバランスを崩した。ではなぜ、そういうレベルに達したのか。突き詰めると、「肘、体の感じが良いから」とダルビッシュ。加えてもちろん、昨年の試行錯誤が、今の結果にもつながっていることは間違いない。

 とはいえ、今の状態で満足するダルビッシュではない。今はカットが良いが、シーズンの最後まで、今と同じような軌道のカットを投げているとは限らない。今もさまざまな球種で、「回転をかけるタイミング、一番力が加わるリリースポイント」を模索している。

 おそらくこれからも、ダルビッシュは野球選手である限り、何かを捨て、何かを得る、ということを繰り返していくのだろう。当たり前のごとく、勇気を持って。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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