浅田真央、尊敬を集めた演技と人間性 引退後も語り継がれる希代のスケーター

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フィギュア界に残した功績

演技だけでなく日頃の所作にも芯の強さを感じさせる浅田真央は、多くの選手の目標となる存在だった 【坂本清】

 芯の強さを感じさせたのは、演技だけではない。試合後のメディア対応でも彼女は毅然としていた。通常、満足いく演技ができなかったときの取材は、どの選手にとっても避けたいものだ。しかし、彼女は誠実に自分の思いを伝える。質問者の方に体を向けて、きちんと目を見て話す。騒々しい中で、声が届かないと感じたら意識的に声量を上げていた。

 ソチ五輪のSPで16位スタートとなったときでさえ、それは変わらなかった。優勝はおろか表彰台すら絶望的な状況となり、ショックを受けていたはずなのに、涙を見せることなく、必死に言葉をつむいでいた。

 国民的スターであるがゆえに、背負っていたものは大きかった。それでもトレードマークとなっていた屈託のない笑顔は、シニアデビューしたころとまったく変わらない。バンクーバー、ソチと2つの五輪に共に出場した鈴木明子さんは以前、「真央が感じていたプレッシャーは相当なもので、私だったら耐えられない。近くにいたからこそ、その苦しさがすごく分かった」と話していたが、そうした中で自分を見失わず、世界の頂点にまで上り詰めたことは、彼女が特別な選手である何よりの証しだろう。常に前向きかつ謙虚。時に意図せず笑いを誘ってしまう発言もあったが、その天真爛漫(らんまん)な一面が彼女の魅力をより際立たせた。

 多くの選手が彼女に憧れ、目標としていたのも、スケートの実力だけではなく、そうした人間性が兼ね備わっていたからこそ。長年にわたり、日本の女子フィギュア界をけん引し、世界の舞台で戦い続けたこともそうだが、彼女のようになりたいと願うジュニアの有望株が育ってきていることも浅田が残した1つの功績と言っても過言ではない。

これからも挑戦を続けていく

「私のフィギュアスケート人生に悔いはありません。これは、自分にとって大きな決断でしたが、人生の中の一つの通過点だと思っています。この先も新たな夢や目標を見つけて、笑顔を忘れずに、前進していきたいと思っています」

 彼女はブログの最後をこう締めた。未来についての具体的な展望は明らかにしていない。以前、自らのスタイルとして「先のことは誰にも分からないから、私は時の流れに身を任せてずっと生活している」と語っているが、これからも彼女は現役時代と同じようにチャレンジを続けていくことだろう。「挑戦する」ことが彼女にとっては生きがいでもあるからだ。

 浅田真央という偉大な存在がリンクを去ったことで、日本女子フィギュア界は新たな時代を迎える。これまでもそうであったように、彼女が残したものを、次世代の選手はしっかりと受け継ぎ、後世へと伝えていく必要がある。世界の舞台でもより存在感を発揮していくことが求められていく。

 自分に厳しい生粋のアスリート。ジャンプや滑りの技術も抜群だったが、苦しみにも耐え抜く精神力は別格だった。天性の才能に加え、弛まぬ努力を積み重ねた希代のスケーター。その存在はいつまでも人々の記憶に残り、語り継がれていくことだろう。

(文:大橋護良/スポーツナビ)

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