幅広い勝ち方で選抜制した大阪桐蔭 チーム全員で勝つ姿勢の徹底

楊順行

履正社との大阪勢対決を制し、5年ぶり2度目の選抜制覇を果たした大阪桐蔭 【写真は共同】

 静謐(せいひつ)に、淡々と流れていた試合が、クライマックスでにわかに“躁状態”になった。

 大阪桐蔭(大阪)が、3本のソロホームランで3点リードの8回裏だ。履正社(大阪)は内野安打の石田龍史を一塁に置いた2死から、安田尚憲が左前打で続くと4番・若林将平がやはり左前にタイムリー。さらに浜内太陽が左中間を破って、試合を振り出しに戻した。

塁に出る気持ちが生んだ2ホーマー

 雨の順延で準決勝から1日空いた決勝戦。履正社・竹田祐、大阪桐蔭・徳山壮磨の両エースが先発した試合は、桐蔭が優勢に進めた。

 初回、「塁に出すとビッグイニングになる」と履正社の捕手・片山悠が警戒した桐蔭の1番・藤原恭大が、ライトスタンドに決勝では史上2人目となる先頭打者ホームラン。桐蔭はさらに2回、好プレーを演じ続ける守備の人・坂之下晴人が左翼席へ。6回には、藤原が2本目のアーチをまたも右翼にぶち込んだ。

 実は藤原は準決勝まで、19打数2安打の打率1割そこそこと、極度の不振だった。

「とりあえず塁に出ようと振っていったら、ホームランになりました。橋本(翔太郎)コーチから『力が入りすぎて始動が遅くなっている』と言われ、毎日つきっきりで修正してもらった。ヘッドの位置を低くしてみたのがよかったと思います」と、大会史上初の決勝での2ホーマーという快挙を振り返る。

好機を待っていた代打男

9回、代打2ランを放った西島を抱いて迎える大阪桐蔭・西谷監督 【写真は共同】

 そもそも、ここまで4試合33回、安定した投球を続けてきた履正社の竹田だが、この日は球が走らない。「連投できる体力が課題」と冬場は、4日続けて100球以上を投げ込んだこともある。準々決勝は1失点完投、準決勝は救援で6回を2失点と、その成果はあったはずだ。

 だが……坂之下に一発を浴びた直球は131キロと、常時130キロ台中盤を計時していた準決勝までの姿じゃない。与えられた1日の休養よりも、「どうも、今年から花粉症になったみたいで。咳はするし、鼻もぐずぐずいっています。もっと早くわかっていれば、対処法もあったかな」(履正社・岡田龍生監督)という影響があったかもしれない。
 
 ともあれ、3対3と同点の9回、桐蔭の攻撃だ。ヒットの坂之下をバントで送った1死二塁、西谷浩一監督は好投の徳山に代えて西島一波を代打に。2回戦の静岡(静岡)戦でも同点に追いついた8回、代打で逆転三塁打を放っている。

 西谷監督は明かす。

「よく投げてくれた徳山を代えるのは忍びなかったんですが、追いつかれて流れが変わりつつある展開。2人目に根尾(昂)を投げさせることは決めていましたし、西島が自信を持ってこっちを見ているので、思い切って代打を決めました」

 そして、その西島が大仕事をするのだ。4球目のストレートを強振すると、打球はレフトスタンドに飛び込む決勝2ランホームラン。ブルペン捕手も務めながら、「いつでもこい」とチャンスを待っていた代打男は、「1打席にかけ、日ごろから準備していた結果です」と右手を高く突き上げた。

 これで勝負あり。さらに竹田に4連打を浴びせた桐蔭が、8対3で5年ぶり2度目のセンバツVを飾ることになる。7回終了時点では2時間を切るペースだった試合時間は、最終盤の“躁状態”で、終わってみれば2時間19分だった。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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