幅広い勝ち方で選抜制した大阪桐蔭 チーム全員で勝つ姿勢の徹底

楊順行

超スーパースター不在だからこそ

準々決勝の東海大福岡戦、走者三塁からのヒットエンドランを決めた山田 【写真は共同】

 大阪桐蔭のVロードは、昨秋の大阪大会、履正社に4対7で敗れたところから始まっている。近畿大会の準決勝でも、神戸国際大付(兵庫)に逆転負け。これでは勝ちきれないチームのままだ、と例年以上に過酷な練習をこなしてきた。

 エース・徳山は「秋は履正社に打ち込まれた。その悔しさから、インコースの真っすぐを磨かなければ」と内角直球の精度にこだわり、野手は野手で「グラウンドから離れた楠公寺(なんこうじ)まで、いつもの倍以上走り込んだ」(坂之下)。

 春夏連覇した2012年の藤浪晋太郎(現阪神)、森友哉(現埼玉西武)のような、超スーパースターはいない。だが、いや、だからこそチーム全員で勝つという姿勢が徹底された。

 たとえば、4対2と接戦を制した東海大福岡(福岡)との準々決勝。7回1死三塁から仕掛けた奇策・ヒットエンドランでの2点目が、重い意味を持った。

 福岡の技巧派・安田大将に対し、リードはわずか1点という重い展開。仮にスクイズで1点取ったとしても、ささいな食い違いで風向きは変わる。それなら、攻めて1点を取ろう。「スクイズより、打って点を取ったほうが次につながる」と三塁走者だった山本ダンテ武蔵が語るように、まるでスクイズのように猛然とスタートを切り、山田健人が中前に転がしたこの1点が、実に効果的だった。

秀岳館・鍛治舎監督が語る以前との違い

決勝で2ホーマーの藤原(写真)や最後を締めた根尾など、2年生に逸材が集まる 【写真は共同】

 準決勝で好勝負を演じながら、1対2と桐蔭に敗れた秀岳館(熊本)・鍛治舎巧監督はこんなふうに語っていたものだ。

「過去に優勝した桐蔭は、圧倒的な強打線と好投手がいて、自由に打たせて勝っていた印象です。それが今回は破壊力がない分、戦い方の幅が広がっていると思いますね」

 宇部鴻城(山口)との初戦は力で圧倒し、初回に挙げた6点を逆転された静岡戦は土俵際でうっちゃり、東海大福岡との準々決勝は走者三塁のエンドランという“奇策”で、鍛治舎監督の秀岳館戦は徳山の好投で……と力で圧倒するだけではない幅の広い勝ち方。さすが、NHKで長年高校野球の解説を続けていた野球人・鍛治舎は慧眼(けいがん)だ。

 そして……こと決勝に限っては、ホームラン4発の破壊力。「ホームランを打てるチームじゃない。上からたたけ、といっているだけですが、甲子園の空気が飛距離を伸ばしてくれていると思います」とは西谷監督である。

 高校野球年表に太字で書かれるべき、史上初の大阪“春の陣”。これを制した大阪桐蔭は春夏通じて6度目の全国制覇で、決勝まで進んだら一度も負けていない。

 さらに……藤原、根尾らの主力はまだ2年生なのである。いったい、どこまで強くなるのだろうか。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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