アジアでの戦いをにらみながらの頂上決戦 ゼロックスで感じた、鹿島と浦和の強み

宇都宮徹壱

鹿島の手堅い補強、浦和の選手層の厚さ

今季最初のタイトルを獲得した鹿島の石井監督。新戦力の融合に手応えを感じていた 【宇都宮徹壱】

「(融合まで)もう少し時間がかかると思っていたんですけれど、試合を通してコンディションと戦術理解を高めていくというところで、非常に早くチームの戦術も理解してくれていました。今日のパフォーマンスも、とても良かったんじゃないかと思います。出場機会のなかった、レアンドロや金森(健志)といった新しい選手の能力を融合させながら、高いレベルのサッカーを目指していきたいです」

 4人の新加入選手をスタメン起用した手応えについて、鹿島の石井正忠監督はこのように語っている。この試合で最もアピールしたのが、小笠原満男とボランチでコンビを組んだレオ・シルバであったことは、衆目の一致するところであろう。前半の2ゴールに絡み(1点目はボールに触っていないが、間接的には十分関与したと言える)、永木亮太と交代する後半24分まではディフェンス面でも大いに貢献した。他の3人についても、レオ・シルバほどの活躍は見せなかったものの、開幕前の時点で鹿島のサッカーにしっかりフィットしているように感じられた。及第点は与えていいだろう。

 エージェントの人間に話を聞くと、一様に「鹿島の補強は手堅い」と指摘する。確かに、クラブのスカウティングや編成のノウハウに、目を見張るものがあるのは事実だ。しかし「鹿島の一番の武器は何か」と問われれば、明確かつブレないスタイルとフィロソフィー(哲学)であろう。そしてそれは、新加入の選手にとっても「自分にどのようなプレーが求められるのか」という明確なガイドラインとなるはずだ。今季初めての公式戦で、4人の新加入選手が(程度の差こそあれ)鹿島のスタイルに順応したプレーを見せていたのは、そうした背景があったように感じられてならない。

 敗れた浦和についても言及しておこう。この試合のポジティブな要因について、ペトロヴィッチ監督は「カウンターを得意とする鹿島に対して同点に追い付き、逆転してもおかしくない展開に持ち込めたこと」を挙げている。実際、この日の浦和の戦いは、決して悲観するものではなかった。むしろ何人かの主力選手を温存しながら、J1王者に対して互角の戦いを見せたことは好材料だろう。ペトロヴィッチ体制となって6年目。選手層もかつてなく充実している。火曜日のACL初戦では幸先の良い結果を残してほしいところだ。

 今回のゼロックスで明らかになったのは、鹿島も浦和も、国内とアジアの戦いをイメージしながらチーム作りを進めているということである。前者は的確な補強、後者は選手層の厚さから、クラブとしての野望が明確に感じられる。思えば昨年のACLは、5月いっぱいで日本勢はすべて終戦となった。今年は国内リーグのみならず、アジアの戦いでもJクラブの熱き戦いを楽しませてもらいたい。待ちに待ったシーズン開幕は、もうすぐだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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