ニューイヤーで主役の座を奪った市田孝 積み上げた自信を胸に東京マラソンへ

折山淑美

宗猛総監督からも太鼓判「長距離の美学ができる選手」

弟の宏とともにコツコツと積み上げるその性格は宋総監督も太鼓判 【写真は共同】

 27分台を出して今年の東京マラソンの出場資格をクリアしたことで、初マラソンへの取り組みを開始。

 マラソン練習をする中で出場した八王子ロングディスタンスでは28分14秒40で走った。
「そういう結果を出したことで『お前がうちのエースだ』と言って下さるスタッフの方もいたので。チーム内では自分はまだまだエースだと言えるような立場ではないと思っているが、そう言ってもらえるからにはエースとしての結果を出すことも大事だと思って。だから実業団駅伝でも一番長い4区を走ってそこで勝負を決めるような走りをしたいと思っていました」という。

 そんな市田にとって、八王子が終わってから弟・宏とともに宗猛総監督の自宅を訪ね、話を聞けたことも大きかったという。
「普段の練習の時もちょくちょく声をかけてくれるので、そういうときに自分たちの練習でのペースがどうだったか聞いて、『今日はちょっと遅かったよ』などという言葉をかけてもらっていました。でももう少し話を聴きたいと思って家まで伺わせてもらいましたが、そこでは宗さんたちがやってきたことも聞けたし、自分たちをどう見て下さっているかも話してもらえたので……。ふたりならできると言われたので、それは本当に自信になりました」

 孝から突然「家へ行ってもいいですか?」と言われたと微笑む宗総監督はこう言う。
「市田兄弟は勢いよくバンバンいくタイプではなく、とにかくコツコツ積み上げていくんです。厳しいトレーニングをしてキッチリ積み上げていくから崩れない。そこが孝のいいところです。地味だけどやることをやって確実に成長する。彼らは本当に真面目で、僕たちが一番嫌いだった練習前の下準備もしっかりするんです。ストレッチもやって動き作りもしっかりやってから走る。性格も素直だし、練習の虫で走ることが純粋に好きな選手です。地道にやって積み上げて行って結果を出すというのが長距離の美学だと思うけど、彼らはそれができる選手だと思います」

目標は派遣設定2時間7分台の突破

26日の東京マラソンでは派遣設定記録となる2時間7分台を目指していく 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 11月中旬からマラソン練習を始めたという市田は、昨年のうちに40キロ走を4〜5回やり、淡々と走れるようになってきたという。実業団駅伝4区の22キロも「45キロ走もやっていてその半分もないから、気持ち的にも楽になっていたし距離への不安もなく淡々と押し切っていける自信はありました」という。

「マラソン練習は小島忠幸コーチや西政幸監督が考えてくれているが、それで足りないと思ったら自分で上積みもしているので、東京マラソンでは派遣設定の2時間07分を切るのが目標です。宗さんには『お前ならできる』と言われているので、その言葉を自信にし、自分の状態をしっかり把握しながら挑戦したいと思っています」

 兄弟は以前宗総監督に、「ふたりの力の差をできるだけ縮めて行かなければ双子である相乗効果は生まれない」と言われたという。それ以来、宏は口には出されなくても猛の姿を見るだけでその言葉をヒシヒシと感じると苦笑する。彼の今季の3000メートル障害への挑戦も「孝が初めて走った時に8分40秒29を出して力の差を見せつけられたことには衝撃を受けたが、違う形から挑戦して5000メートルや1万メートルの力になればいいと思っている」と、兄を追いかけようとする気持ちを強くしている。

「あいつらは本当に仲がいいですね。うちにきたときも『自分たちも宗さんたちのように家を並べて建てて住みたい』と言うから、『なんじゃ、お前らは』と言ったんです」と宗総監督が呆れるほどに仲のいい兄弟。孝が名門・旭化成のエースとして出場する東京マラソンで好走をすることは、そんな弟の宏にさらなる刺激を与えることにもなると考えているはずだ。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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