巨人キャンプで見た打撃の意識 サク越え本数に踊らされるな!!

菊地高弘

超スローカーブで「形」をつくる

12日の紅白戦の初回にライトへ適時二塁打を放った岡本 【写真は共同】

 さらに巨人のフリーバッティングが特殊なのは、打撃投手が投げる球を打つケージがあるだけでなく、ピッチングマシンによる超スローカーブを打つケージがあったことだ。このカーブは球速にすれば70キロほど。実戦ではまず打つことのない遅さだ。

 3年目のホープ・岡本はこう証言する。

「基本的に強く振ることをテーマにしています。ゆるいカーブマシンを打つことで、間(ま)をしっかり取れて、強く振るスイングにつながっていくと思います」

 また、前出の藤井打撃投手はさまざまな球団を渡り歩いた経験から、こんなことを教えてくれた。

「ゆるいボールを打って調整する選手は多いですよ。ヤクルトの川端(慎吾)選手がそうだし、中日の立浪(和義)さんも現役の頃にやっていました」

 ゆるいボールを打つためには、呼び込むための「形」ができなければならない。キャンプ序盤にそうした形をつくる練習をすることは、派手なサク越えショーではできない、名より実を取った調整法だといえないだろうか。

「サク越えの本数は本質を示していない」

 ソフトバンクのように各自が伸びやかに強いスイングをする調整法、巨人のように逆方向を意識した調整法、どちらが正しい・間違っているという次元の話ではないはずだ。ただ、いっしょくたに「サク越え本数」を基準にしてしまうと、大きな誤解を招く可能性がある。

 率直に江藤コーチに聞いてみた。「報道されるサク越え本数をコーチは気にしているのですか?」と。すると江藤コーチは語気を強めて、こう答えた。

「俺はまったく気にしないね! 自分が現役のときは『サク越え何本』と新聞に出るのがすごくイヤだったんだよ。なかには気にしてしまう選手もいるかもしれないけど、サク越えの本数なんて全然本質を示していない。選手それぞれに、もっといろいろとやることがあるんだから」

 現役時代に広島から巨人にFA移籍して、連日報道陣に追い回された江藤コーチだからこそ言える、実感のこもった言葉だった。

 これからキャンプも終盤に入り、選手たちの調整ペースは徐々に上がってくるだろう。だが、もし巨人キャンプのフリーバッティングを見て、「サク越えが少ないな」と思ったとしても心配はいらない。彼らはそれぞれに信念を持って、シーズン開幕に向けた準備を着々と進めているのだ。

 昨季チーム打率2割5分1厘、チーム得点519に終わった巨人打線に「活気」が出てくるかどうか。シーズンが始まってから、その答え合わせを楽しみにしたい。

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著者プロフィール

1982年生まれ、東京都育ち。野球専門誌『野球太郎』編集部員を経て、フリーの編集兼ライターに。元高校球児で、「野球部研究家」を自称。著書『野球部あるある』シリーズが好評発売中。アニメ『野球部あるある』(北陸朝日放送)もYouTubeで公開中。2018年春、『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)を上梓。

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