前橋育英で成長を続ける双子の兄弟 父が成し得なかった選手権制覇を2人で
「思わぬ形」で実現した選手権での同時出場
PK戦でインターハイ王者の市立船橋を下した前橋育英。同時にピッチに送り出された2人もPKを成功させた 【写真は共同】
共にベンチスタートとなり0−0で迎えた69分、2人そろってピッチサイドでユニホーム姿になっていた。
「難しく考えないで、シンプルに自分のプレーをやろう」と悠が涼に語り掛けると、涼は「そうだな。変に意識せず、お互いで流れを変えよう」と答え、2人はハイタッチをした。
2人同時にピッチに送り出されると、その言葉通り、彼らはスムーズに試合に入り安定したプレーを見せた。そして、PK戦では2人目のキッカーで涼が登場すると、右隅に冷静に決め成功。続く3人目は悠だった。「涼が右にしっかりと決めてくれたので、自信を持って蹴ることができました」と、強烈なキックを真ん中に突き刺した。結果、前橋育英は5人全員がPKを成功させ、夏の高校総体(インターハイ)王者を下す大きな勝利を手にした。
「サッカー人生で本当に初めての経験だった。一緒に入って、PKを共に決めて……。一生忘れられない、記憶に残る試合になりました」(悠)
父の思いを背負って、埼スタのピッチに立つ
選手権制覇に向けて、2人は父の思いを背負い準決勝のピッチに立つ 【写真:アフロスポーツ】
「準決勝は周りの期待に応えるプレーをして、涼と2人で埼玉スタジアムのピッチに立ちたいです」(悠)
「準決勝は同じピッチに立ちたい。本当に強く思っています」(涼)
2人は現在2年生、最高学年となる来年は間違いなくレギュラーの座をつかむだろう。だが、どうしても今回一緒にピッチに立って成し遂げたい目標があった。それは兄弟の絆ではなく、「親子の絆」だった。
2人の父である普さんは、今から27年前の第68回選手権で、前橋商業のレギュラーとしてベスト4に輝いている。この時は準決勝で優勝した南宇和(愛媛)に1−4で敗れ、涙をのんだ。
「(父の記録を)超えたいし、2人でプレーする姿を見せたい」(悠)
ついに父が立った舞台にたどり着くことができた。だからこそ、2人でピッチに立って、父が成し得なかった決勝進出、そして選手権制覇を達成したい。2人の思いはひとつだった。
選手権前、父から贈られた言葉は「選手権は難しいぞ」という一言。シンプルだが、経験した者にしか分からない重い一言だった。この言葉で2人の表情は引き締まり、決意も固くなった。兄弟の絆、親子の絆。まさに縦の糸と横の糸が重なり、2人はさらにたくましく成長する過程の真っただ中にいる。
1月7日、埼玉スタジアムのピッチに思いを寄せて――。田部井兄弟は決意の場所に立つ。