うれしくても悲しくても、感情を揺さぶる ライター島崎が語るJリーグの魅力(6)
結束と団結を重んじるミシャのチーム作り
16年シーズンはペトロヴィッチ監督のもと、ようやく1冠を手にした 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
皆から親愛の情を込めて“ミシャ”と称される指揮官は聡明で慈悲深く、何より見識に溢れた素晴らしい指導者です。
現体制結成直後の12年2月、鹿児島県指宿市での強化キャンプで、選手たちが練習中に集中を欠くような振る舞いをした時にミシャさんが説諭した言葉を忘れません。
「これまでも君たちは、そうやって好き勝手に、自分本位で物事を進めてきたのではないか? しかし、その結果が昨季(11年シーズン)の15位という結果になったということを認識しなさい。今、私たちは同じ方向に進もうと努力をしている最中だ。それなのに、1人でも独りよがりなことをするのなら、私はその選手を絶対に許さない。君たちはすぐに人のせいにしてこなかったか。まずは自分を鑑みなくてはならない。それがたくさんのサポーターが支える浦和レッズというチームでプレーする選手の、最低限の責務なんだ」
あれから5年、ペトロヴィッチ監督体制の浦和レッズは16年シーズンのYBCルヴァンカップを制してようやく1冠を得ました。しかし悲願のリーグタイトルは未だ奪還できていません。それでもミシャさんは結束と団結を旨とし、懇切丁寧に、思慮深く振る舞ってチームを日々成長させてきました。
CSで感じたミシャとチームのズレ
CSの浦和は一枚岩になっているとは言えない状況だった 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
正誤を問いたいのではありません。この時、チームは果たして一枚岩だったのか、一つの集合体として団結できていたのか。常日頃から監督が親愛の情を込めて訓示した理念は、チーム全体に伝播していたのでしょうか。僕の個人的な心情で恐縮ですが、このシーンは非常に寂しく、哀しく感じました。チーム結成以来、指針としてきたもの。それを見誤ってしまえば、究極のタイトルマッチを制することなどできません。
CS終了後、長い記者会見を終えたミシャさんと通路で出くわしました。いつものように右手を差し出して握手したら、監督は僕を引き寄せて約3秒間抱きしめてくれました。その肩は、少し震えていたかもしれません。痛惜の念は筆舌に尽くし難いです。
それぞれの想いを投影しながら
うれしくても悲しくても、Jリーグには人の感情を揺さぶる魅力がある 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
16年シーズンの浦和レッズはルヴァンカップを獲得。そしてJリーグは34試合で歴代最多勝ち点タイの74を積み上げましたが、リーグが定めたCSで屈してタイトルを逃しました。純然たる事実を突き付けられたチームは来季、17年シーズンにどんな姿を見せてくれるのでしょう。
今年も暮を迎えます。寒くなってきました。炬燵(こたつ)に入ろうと足を伸ばすと、中に居た愛猫を蹴飛ばしてしまいました。
「すみません……。そして、ありがとう。いつも一緒にいてくれて」
歓喜、安堵(あんど)、悔恨、辛苦……。それぞれの想いを投影しながらクラブ、チームへ寄り添う――。
うれしくても悲しくても、Jリーグには人の感情を揺さぶる魅力があります。少なくとも僕は、そう思っています。