駿台学園の初戦が事実上の決勝戦!? 山本隆弘が語る春高バレー男子の展望

田中夕子

総合力や層の厚さが重要

前回大会優勝した東福岡。近年は総合力や層の厚さが重要になっている 【坂本清】

 僕が高校生だった頃、春高は1、2年生のみが出場する大会で、まだチームも出来上がっていなかったので、エースが1人いればそれなりに勝てるという状況でした。

 今は3月開催から1月開催になったことでより総合力が求められ、たとえ1人のエースがいたとしてもそれだけでは勝てない。総合力や層の厚さがなければ頂点に立つことはできません。僕自身も部活指導という形でこの2年間に大塚、洛南、開智、清風、近江(滋賀)、足利工大附(栃木)、仙台商業(宮城)、荏田(神奈川)、松山工業(愛媛)、高川学園(山口)、西原(沖縄)、鳥取商業(鳥取)、佐賀商業(佐賀)、高松工芸(香川)に行き、実際の練習を見て指導する機会がありましたが、どのチームも「組織をつくりたい」という意欲が感じられました。特にブロックやディフェンスの要望が多く、大型エースがいなくても手堅くバレーボールができるシステムづくりを求める学校が多くなってきました。

 個よりも組織。それは戦い方として間違っていません。ただ、高校生は後につながる可能性や技術を磨く大切な時期でもありますので、組織に順応するための器用さやスピードばかりを追求するのではなく、雄物川(秋田)がやり続けているように高いトスを高い位置でしっかりたたいて打つといった基本技術も習得してほしい。世界を相手に点数を取れる選手の育成も、チーム強化と並行して進めてほしいと願っています。

 今大会に出場する選手は、全員が東京五輪を目指すことができる世代です。「日本一になる」という目標だけでなく、俺が東京五輪に出るんだという強い気持ちを出してぶつかり合う、見応えのある試合をしてほしいですね。

春高はステップアップの大会

石川祐希は星城時代に2年連続三冠を達成し、ステップアップを果たした 【写真:アフロスポーツ】

 昨年のワールドカップや今年の五輪最終予選にも出場した石川選手や、柳田将洋選手も春高で活躍し、ここから羽ばたいていった選手です。東京五輪という大きな目標があり、若い選手が全日本でも中心になっている今、参加する選手全員にチャンスがある。そんな大舞台で、どれほどのパフォーマンスを発揮できるか。ここ一番で勝負強さを発揮できるのはどの選手か。1人でも多く、その可能性を感じさせるような選手が出てきてほしいと僕も1人の春高OBとして願っています。

 たとえこれまで全国大会の経験がない選手でも、春高がそれまでの経験を覆し、人生を変えるような大会になることもあります。

 実際に僕自身も(鳥取商業時代に)春高に出て、初めて全国を知りました。それまでは鳥取県のレベルで考えていた目標や基準が全国になり、それから世界へと広がっていきました。春高は、まさにそんなステップアップの大会です。出場する選手には1つでも多くのきっかけを得て、これからにつなげてほしい。それは間違いなく大きな財産になるはずです。

山本隆弘がおすすめする春高の楽しみ方

山本さんは自分なりの選考基準を持ってバレーボールを見れば、面白さが広がると語る 【坂本清】

 そして見る方々にも、同じように先を見据えながら、これからを想像しながら春高を見てほしいですね。たとえば、1、2回戦の試合を見に行って、自分なりの12名を選ぶ。それぞれ、どうしてその選手を選んだのか、簡単な理由とともに集めればきっといろいろなものが見えてきます。大型選手を選ぶ人、小柄だけれどうまい選手ばかり選ぶ人、守備力は低くてもとにかく打ちまくる選手をそろえる人。正解はありません。

「こんな選手がいたらいいな」という基準を持ちながらバレーボールを見れば、今度は個が組織として成り立っていくために何が必要かを考えるようになる。そんな視点を持つことで、バレーボールを見る楽しさ、面白さは間違いなく広がります。

 全日本やVリーグはひいきの選手を追いかけて見るという人が多いと思いますが、もっと全体を見れば、ここで決めるのがエースだなとか、これだけ打っているのにどうしてこの選手に対してブロックが1枚になるんだろう。そうか、セッターがうまいのかといったように、見方は一気に広がっていくはずです。

 スター選手ばかり追うのではなく、自分が成長を見届け、後にスターとなるような選手を選ぶ。そんな目線で、春高を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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