競泳・池江璃花子が遂げた「心の成長」 世界大会のメダル獲得で見据える高み

田坂友暁

シンプルな気持ちで試合に臨む純粋さ

世界であろうが、地元の小さな大会であろうが、シンプルな気持ちでレースに臨む純粋さが池江にはある 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 もちろん、それだけではない。過去に池江は「練習はきついけど、試合は楽しいから好きです」とインタビューで答えたことがある。池江が記録を伸ばし続けられる根底にあるのは、『レースが楽しい』というまっさらな気持ちだ。

 自分の全力を出し切り、他人と勝負する。勝てるとうれしいし、次も勝ちたいと思う。負けると悔しいから、次こそは勝ちたいと思う。記録が出れば疲れが吹き飛ぶくらい楽しくなるから、もっと記録を出したい。勝つためなら、記録が出せるようになるためなら、しんどい練習だって頑張れる。

 池江のレースに対する想いは、ただ純粋にレースの本質を突いているのである。初めて試合に出られるようになった子どものころ、きっと緊張はしていただろうが、それよりも自己ベストという言葉がどれだけうれしかったことだろうか。勝つ、ということがどれだけ楽しかったことだろうか。

 それが世界であろうが、地元の小さな大会であろうが、何ひとつぶれないシンプルな気持ちでレースに臨むこの純粋さこそ、池江が記録を出し続け、いまだ進化をし続ける大きな要因なのである。

今見ている景色のもう一歩先の世界へ

世界の舞台で表彰台に上がれたことは、池江にさらなる高みをイメージさせた 【Getty Images】

 目標は大きければ大きいほうが良いが、自分がその目標を達成できるイメージを持てなければ、現実味が湧いてこないため、なかなか目標をクリアできなくなることが多い。しかし、ひとたび自分がその目標を達成できた姿をイメージできたならば、それを実現することはそう難しいことではない。

 2015年、初めて世界大会を経験したことで、世界で戦う自分をイメージできた。2016年には、五輪という最高峰の舞台で戦う池江の姿があった。表彰台には上れなかったが、自身の5位入賞、そして同年代のライバルであるペニー・オレクシアク(カナダ)の金メダルを目の当たりにすることで、池江に表彰台に立つ自分を想像させた。

 そして今、世界レベルの大会で初めてメダルを手に入れ、表彰台に上がることができた。世界の表彰台から見た景色は、今まで見たことがないほどの輝きに満ちあふれていたことだろう。未来を見据える大きな瞳に、この光り輝く景色をしっかりと焼き付けた池江は、その世界をもっと見てみたい、さらに高いところからの景色を見てみたいと、ただ純粋にそう思っているはずだ。

 出場する大会すべてを確実に糧にして、イメージした目標をひとつずつクリアしていき、一歩ずつ前に進んでいる。2017年シーズンは、今大会でメダルを獲得したことで、表彰台のさらに上を池江にイメージさせた。

 きっと、来年4月の日本選手権、そしてハンガリーのブダペストで行われる第17回世界水泳選手権では、今よりもさらに一歩進んだ姿を私たちに見せてくれるに違いない。

 その証拠に、池江は今大会終了後、このような言葉を残してくれた。

「今回、世界大会でメダルが獲れたことは大きな一歩だと感じていて、さらに自信を持ってこれからの大会に臨めるんじゃないかと思っています。昨年の日本選手権前の練習では、嫌というか、泳ぎたくないって思うときもありました。でも、それを乗り越えたからこそ、今があると思うので、東京五輪のことを考えて、今回の冬場のトレーニングもきついと思いますけど、頑張りたいと思います」

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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